日本人が禍津神を祀り、崇めるのは、禍を起こさぬように鎮めていただく。

そのために供え物をし、お祈りをする。

神というのは、必ずしも幸福をもたらす存在ではなく、人智を超越する存在。


無病息災の神は、裏を返せば健康を害する力がある。

火の神は文字通り火を司る。

人間の生活に火は不可欠だが、時に扱いきれずに禍をもたらす。

神に無事を祈るのは、崇めなければ無事ではいられないからだ。


人身御供など最早あまり見られないが、神の怒りを鎮める為には、作物や饅頭では足りぬ。

大いなる禍は人身を捧げて回避する。


閑話休題。

僕の職場には地下に喫煙スペースがある。

灰皿と椅子が置いてある。

そこに神がいる。

神はお怒りであり、禍をもたらす。


蚊だ。

かなり大きな蚊がいつも飛んでおられる。


無謀にも神に闘いを挑むも、その素早さ足るや雷光の如し。

脳に響く超音波のような呻きをあげ、神出鬼没。

敵うわけもなく、神の一撃は耐え難し痒みを伴い、その苦痛は七つ日を見ても治まらぬ。

痒みが治まればまだ良い。

時に神の怒りは人を死に至らしめる。


我思ふ。

神に逆らってはいけない。

神を崇め、供え物をし、怒りを鎮めていただいた方が良いのではないか。

神が欲しているのは生物の血なのだから、随所に血のシャンパンタワーを建設し、人に禍をもたらさぬようにしてはどうか。

現代の科学であれば容易に実現可能である。

古代の浅知恵(蚊取り線香)など、怒りを増幅させる愚行に過ぎぬ。

神との闘いを続け、永久に血を流し続けるよりも共存を。