さっきの続きになるけれど、僕は若い頃とてもお金に困っている時期があって、その時、僕に数百万のお金を貸してくれる人がいた。
一体この人は何を考えているのだろうと不思議だったけれど、本当に神のような存在に思えた。
結局僕は、そのお金を正しくは使えなかったと思う。
だけど、何年もかかったけれど借りたお金はすべて返した。
色んな意味で本当に感謝しているし、自分もそうありたいと思う。
ちなみに、お金を返すために質素な暮らしをしていたので、周りは相当貯め込んでいると思っているようだ。
現在、有難いことに生活には困ってないけれど、当然貯金は無い。
車とかいい時計とかスーツとかバックとか。
この年齢で真面目に働いていれば普通に手にしているようなものを、僕は数年前まで一切持っていなかった。
ようやく追いついたかな、と思ったら、周りは嫁やら子どもやらマンションやらを手にし始めている。
当然ながら、10年弱のアドバンテージは簡単には取り戻せない。
後悔はしているけれど、だけど、不思議と嫌じゃない。
言い訳みたいになるけれど、マイナスがプラスになっただけで幸せだし、まだ勝負は終わってない。
落ちた分だけきっと上れると信じてる。
メンズエステという名の、オイルマッサージという名の、マンション型鼠径部マッサージ。
限りなくグレーに近いものだけれど、最近よく行きます。
風俗店ではないと銘打っているので、そういうサービスはありません。
が、
まぁ、マッサージの中でやむなく触れて、敏感な人は思い掛けずそういうことになっちゃうこともあるのかも知れないし、無いのかも知れません。
僕は知りませんが。
色んな葛藤があるのです。
仕事が終わり、近くのカフェでカフェラテを飲みながら、行くかどうかを考えます。
仕事中は、仕事が終わったら「メンズエステ」に行けることを糧に頑張っているのですが、実際に終わったら、解放感も手伝い、ちょっと気持ちが萎えます。
カフェで格好付けながら、本能と煩悩と金銭の狭間で葛藤します。
あたかもスマホで株価指数でもチェックしているかのような装いで、「セラピスト」の出勤情報を確認しています。
最近は電話をする必要もありません。
LINEで予約できるので便利な世の中です。
LINEを送ってさえしまえば、予約は進むので後には引けません。
まぁ、その時の心境は、意気揚々、期待と煩悩ではち切れそうです。
「施術ルーム」は割と都会の中にあります。
普通のマンションの一室です。
SMSで部屋番号が送られてくるので、直接マンションの部屋まで行きます。
僕はこの時点で、既に後悔しています。
こんな場所にいいことなんて何一つないことを知っているので。
しかし、後には引けません。
オートロックを開けてもらい、エレベーターに乗り込みます。
マンションの住人らしき人とすれ違うとちょっと気まずいです。
自分がものすごく下劣な人間に思えて、ちょっとニヤニヤしてかなり不審者です。
その障害を乗り越え、指定された階に着きます。
その部屋を見付けるのに苦労なんてありません。
部屋の前に立って、一回目の深呼吸です。
後悔はここで最高潮に達します。
本当にバカだな、と。
インターホンを鳴らすと、すぐに「セラピスト」がドアを開けてくれます。
ご対面です。
思っていたより若かったり綺麗だったりすると、僕の心は折れます。
これは本当に僕の悪いところです。
かわいくなければ、若くなければ大丈夫、みたいな、女性を見下してる感じ。
自分自身、そんなのは嫌だけど、ホッとするのは真実なので否定はできない。
一つ言い訳をするなら、キャバクラだろうとコンパだろうと、キレイな人は苦手です。
劣等感の塊なので、キレイな人には逆に見下されてる気がします。
卑屈で格好悪い。
でも仕方ない。
本当なんだから。
部屋に通されると、大抵はソファに座ります。
まずは、「セラピスト」がお茶なりコーヒーなりを入れてくれます。
それを飲みながら、お金を払い、少し雑談タイムなのですが、僕は人見知りなので、スマホをいじります。
人見知りというか、茶番みたいなの、本当に苦手なんです。
わかりますでしょうか?
この茶番って感じ。
ちなみに「セラピスト」は、割と際どい格好をしています。
目のやり場に困ります。
割と挙動不審だと思います。
5分ほど気まずい茶番タイムを凌いだら、シャワーに入ります。
もちろん、セルフサービスです。
服を脱ぎながら、一回目の「僕はここで一体何をやっているんだろう」です。
シャワールームというか、ただのマンションのお風呂です。
ご丁寧に、普通のボディーソープと無香料のボディーソープが置いています。
誤解を招かないような配慮なんでしょうけど、どのみちオイルでベタベタになるので微妙だとは思いますが。
シャワーを浴びている間は、一部を除いて割と落ち着いています。
なんでしょう、密室の安心感というか、今この時間だけは誰にも干渉されないという、トイレの個室のような感じ。
ヘタレですから。
綺麗に体を流して、タオルで拭きます。
ここで、一つ問題が生まれます。
紙パンツの扱いについてです。
紙パンツを履くべきか、履かざるべきか。
履かないなら事前に断りを入れるべきか、当たり前のように堂々と行くか。
本当に小心者なので、こういう所でウジウジ悩むのですよ。
結局は「セラピスト」に聞きます。
「履いた方がいいですか?」と。
これ、僕の最大の欠点というか、自分でも直さないとと思ってるんですけど、悩んだ時、他人に判断を委ねる癖があります。
本当は履きたくないのに、履かないで悪く思われて自分が傷付くのが怖いので、予防線を張るのと、後は他人に決断を委ねるのです。
「セラピスト」が履かなくていいと言えば、僕に非は無い。
「セラピスト」が履けと言えば、そういうルールなのだから仕方ない。
そうやって、自分は悪くないと思いたい。
これは本当に悪いところ。
たちが悪いのが、「履かなくていいですか?」ではなく、「履いた方がいいですか?」と聞くところ。
本当に嫌だ。
自己嫌悪。
たちが悪い。
立ちはいいのに。
まぁ、大抵は「どちらでもいいですよ。」が返ってくる。
なので紙パンツは履かずにタオルを巻く。
これこそ茶番なんですけどね。
こんな茶番は「セラピスト」も重々承知で、「めんどくせーな、こいつ」と思っているだろうけど。
本当に直したい。
ここを直したら、絶対に人生変わる!
裸にタオルを巻いて、脱衣所の扉を開ける前に二度目の深呼吸です。
開けたら最後、コースが始まります。
気持ちを落ち着かせて、いざ扉を開けます。