ストレスが溜まっている僕は、スマホアプリ
“やだやだやだやだやだやだやだやだやだ”
を使っている。
このアプリは、現在飛行中の航空機への攻撃を依頼できる。
もちろんそれは、アプリの中だけの話で、実際にそんなことできるわけがない。
GPSを使用して、現在の位置情報から地図を表示し、飛行中の攻撃対象を選択して依頼する。
かなりリアリティのある造りになっている。
数時間後、自分の家の上空を通過する航空機があったので、何気なく攻撃を依頼した。
別になんてことはない。
ストレス発覚にすらならない。
実際に、数時間後に航空機が上空を通過するだろうが、ただそれだけ。
のはすが、航空機は攻撃され、今にも墜落しそうになっている。
その光景を見た僕は、そのアプリが“本物”だったことを悟る。
そして、依頼をした自分がただでは済まないことを確信する。
その反面、まだ信じられない自分がいる。
たかがアプリで何気なく依頼しただけで、本当に航空機が攻撃されるなんてことあるだろうか。
いや、しかし、事実、自分が指定した場所、時間に航空機は攻撃された。
自分の関与は疑いようがない。
しかし、アプリを操作しただけの自分にまで辿り着かれるだろうか。
アプリの存在さえ知れれば、僕に辿り着くのは必至だけれど、そこまで捜査の手が及ばない可能性もある。
もやもやとした時間を過ごしながら、自分が取るべき行動を考える。
“ここ”にいることができる時間は、あと僅かしか残っていない。
夢であればいいのに、と思うが、残念ながら夢ではない。
家の中には、母と姉がいる。
もちろん、母と姉は何も知らず、普段通りの会話をしている。
僕は不安を隠しながら、最後かも知れない日常になんとも言えない気持ちになる。
不安で眠れない夜を過ごし、早朝、僕は服を着がえる。
もう、二度とここには戻ってこれないかも知れない。
もう会えないかも知れない。
大切な人の顔が頭に浮かぶ。
母と姉の話し声が聞こえてくる。
どうやら起き出したようだった。
僕は後ろ髪を引かれる思いで、そっと裏口から外に出る。
外に出ると、何やら周囲が騒がしい。
正面の方を見ると、パトカーが止まっているのが見えた。
僕は駆け出した。
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昨日見た夢。
本当にロクな夢を見ない。
頭に浮かんだ大切な人達が、今自分が失いたくない人達なのだと思った。
いつの間にか、失いたくないものができていたような気がして、微妙な気持ちになる。
それより、夢の中で夢かどうかを確認して夢じゃないことを確信するなんて反則じゃないでしょうか?
ただ、起きて夢だったことを確信した時の安堵感は、麻薬的な快感を伴う。