自転車の旅。
みんなそうなのかも知れないけれど、小学生から高校生ぐらいまでの間、自転車でよく旅をした。
最も遠いところだと、琵琶湖まで行ったので、距離にして80キロぐらい。
一人の時もあれば、誰かと一緒の時もあった。
夜中にこっそりと家を抜け出しては、夜の町を徘徊した。
灯りが消え、人がいない町は、高揚感すらもたらした。
高校を卒業してからは、原付と自転車の併用になった。
仕事を始めていたけれど、それでも、気が向けば遠くまで行けた。
仕事が遅くなって、終電が無くなった時は歩いて帰った。
家に着いたら午前2時を過ぎてたなんてことも多々あった。
こういうのは、職場から歩いて帰れる距離に家があったから出来たことなのだけれど、仮に歩いて帰れない距離だったなら、ネットカフェにでも泊まっていたと思う。
自転車でも徒歩でも、夜の町は空気が澄んでいて、どことなくノスタルジックで、早く帰りたいと思う反面、このまま静寂に飲み込まれていたい、朝が来なければいいのに、なんて思っていたような気がする。
それが今はどうだ。
早く家に帰るために、タクシーを使う。
まだ終電があるのに、タクシーを使う。
雨が降っているから、タクシーを使う。
車の維持費に較べれば安いから、タクシーを使う。
いつの間にか、タクシーを使うことに抵抗が無くなってしまった。
もちろん、浪費だとは思う。
馬鹿げているとも思う。
コストパフォーマンスは悪すぎる。
それでも、時間をお金で買う、必要経費だと言い訳してタクシーを使う。
電車で帰るよりも、タクシーを使った方が30分早く帰れる。
30分を2000円で買う。
その30分で何をしてる?
馬鹿げている。
家に帰って速く寝たい。
平日の限られた時間を、少しでも多く自分のために使いたい。
昔はタクシーなんて乗る必要が無かった。
自分とは無縁だと思ってた。
事実、20代前半まで、数えるほどしか乗ったことがなかった。
それが今や、月に5回ぐらいは利用している。
生活に多少の余裕があるから出来ることであって、切り詰めた生活に戻ったら、間違いなくまたタクシーとは疎遠になるだろう。
とは言うものの、今タクシーを多用することの正当性は見付けられない。
唯一は、時間をお金で買う、という建前か。
とは言うものの、タクシーを多用できる今の自分が、何というか、誇らしいというか、成長したというか…。
何かを確かめるかのように、わざとタクシーを利用している(無駄遣いをしている)自分がいる気がする。
言い訳無用。
もう止める。
自転車で旅をして、すべてが新鮮に思えたあの頃へ。