金曜日の夜のこと。


なんば駅からいつもの電車に乗って、

家に帰ろうと思った。


準急だったか急行だったか忘れたけど、

とにかく、

主要駅にしか停まらない電車に乗った。


座席に座って、

音楽を聴きながらケータイをいじってた。


乗り慣れた電車。


なんば駅から何駅で着くかももちろんわかってる。


電車が駅に停まる回数を数えて、

次の駅だと思って、

ウォークマンの音量を下げた。


車内のアナウンスが、

僕が降りる駅を告げた。


告げた、

と思った。


僕は座席から立って、

扉の前に立った。


僕の座っていた所には、

すぐに違う人が座った。


混んでは無いけど、

座席はすべて埋まって、

立ってる人もそこそこいた。


金曜日の午後10時過ぎ。


まぁ、

そんなものか。


駅に到着し、

扉が開いた。



一瞬、

時間が止まったような感覚になった。


何も聞こえなくなって、

自分だけが世界から浮き出ているような感じ。


違う。


違った。


見慣れているはずの駅のホームと違った。


僕が降りる駅は、

乗り換えもあるし、

それなりに大きな駅だ。


それなのに、

目の前の景色は、

各駅停車しか停まらないような寂れたホームだった。


僕は思った。


何かを間違えたと。


降りる駅の一つ前か、

もしくは通り過ぎたか。


でも確かに、

アナウンスは降りる駅名を告げていたはず。


なら、

通り過ぎた可能性よりは、

一つ前の駅である可能性の方が高いと思った。


扉が開いてから数秒の間で僕はそう判断し、

車内から扉が閉まるのを見守った。


閉じた扉越しに見ても、

やっぱり見たことのないホーム。


なんか田舎の駅みたいだった。



電車は再び動き始めた。


止まった時間も動き始めた。


アナウンスが流れる。


次の停車駅を告げる。


僕が降りる駅の次の駅だった。


やっぱりさっきの停車は降りるべき駅だったんだ。


でも、

なにか納得いかない。



電車は、

10分は止まらなかった。


僕の最寄り駅を過ぎると、

急に停車間隔が開くのだ。


結局、

次の駅で降りて、

その駅でなんば行きの電車に乗り換えた。


また10分くらい乗って着いた駅は、

いつもの見慣れた光景だった。


僕は何か腑に落ちないながらも、

電車を降りて、

自分のマンションへと帰った。


家に着いたら、

既に午後11時半前だった。



結局、

何がおかしかったのかが分からない。


でも、

どう考えても、

あの時見た景色は違ってた。


そろそろ頭がおかしくなってるのかも知れない。


でも少しだけ思うんだ。


一瞬、

世界が止まったような気がした。


もしかしたら、

本当に止まったんじゃないかって。


あの時、

電車を降りていたら、

僕は違う世界に迷い込んでいたんじゃないかって。


有り得ないって?


確かに、

一般的には有り得ないけど、

そうでなかったら、

僕の精神状態が有り得なかったとしか思えない。


まぁ、

後者の方が現実的ではあるけれども。


でも、

一瞬、

世界が歪んだのかも知れない。


時空が歪んだのかも知れない。


あの時降りていたら、

違う国へ行けたかも知れない。


過去に戻れたかも知れない。


未来へ進めたかも知れない。


パラレルワールドに迷い込めたかも知れない。


ドラえもんみたいに、

最後は絶対自分の世界へ戻ってこれるとは限らないけど、

こうしてくだらない週末を過ごし、

明日からの一週間が憂鬱で仕方が無い僕は、

例えその先がどんな世界であっても、

やっぱり降りていれば良かったかも知れない、

そう思う。