市役所を経営する ~ 地方自治体のマネジメントアイデア ~-地域持ち寄り防災会

1.地域で何かやってみよう!
(1)持ち寄り防災会をやってみた
以前に防災訓練に何度か出てみたんだが、つまらなかった。みんなもつまらなさそうだし、本当に災害を防げるのかなと疑問をもったのがきっかけだった。
そこで、坂本龍一さんがすすめていた"隣人パーティー"を防災でアレンジできないかと思い、持ち寄り防災会を企画してみた。
防災訓練の一環で、隣近所の地域の人が、自分の食べる分を持ち寄って集まる。冷蔵庫の中にあるものを持ち寄ってみんなで炊き出しをする。
今年の防災訓練は、そんな持ち寄り防災会を始めてみた。
 

2.地域の現状

(1)中津川市自治会の現状
地域の自治会の状況を一言でいえば高齢化。
死ぬ時が世代交代となっている。
年寄りが役を譲らないのか、50代が忙しくて余分な仕事を嫌がっているのか分からないが、新参ものはだまっておれという感じもまだまだある。
残念ながら地域づくりの世界では50代でも若手だ。
もちろん70代中心のメンバーでは、そんなに新しいことはできていない。
今まではこうだったからこうやらなければいけないという頑固を言えるオヤジがいればいい方で、めんどくさいからどんどんやめていこうという雰囲気も強い。
世代交代を真剣に考えず、できなくなったらぷつっとやめてしまう。そんな風に健全な世代交代が行われない地域は、不幸だ。


30代は全然参加しないという嘘
地域にいくと若手の参加者が少ないのを嘆く声をよくきく。しかし30代の友人によくよく聞いてみると決して参加したくないわけではない。ただつまらないとかめんどくさいから参加しないだけだ。
今の30代40代はみんな何となくつながりたがっている。
煩わしくない楽しそうな仕組みをつくれば必ず参加者はいるはずだ。
地域のことを思い切って、若手に運営をまかせてみたらどうだろう?
地域に生きていく覚悟をもったもった地元出身の30代や、引っ越してきて地域になじみたい30代はたくさんいる。
地域貢献することで地域における居場所をつくっていきたい30代はけっこういるのだ。


PTAの奥様
PTAなどは地域活動の母体としてとてもいい組織だ。
PTAが動けば子どもたちが盛り上げてくれる。
しかしPTAにも癖があるので気をつけた方がいい。
といのは、女性は男性に比べて、ルールどおりきっちりやりたいという傾向があるようだ。
割り勘は一円単位だし、予定も綿密にきめていくのが普通だ。
お父さんたちのように予定を決めずに走りながら考えていってると、奥様方に総スカンをくらう可能性もあるのでご注意を。


地域の人材はすごい
地域には、けっこうすごい人材が隠れている。
私の地域も200世帯余りの地域だが、薬剤師や看護師、電気工事士や重機のオペなどたくさんの人材がでてきて頼もしさを感じた。
電気工事士とは、災害でいざとなったらあの電柱から電気とろうと話し合ったぐらいだ。


3.巻き込む

巻き込む
まちづくりの専門家に、「まきこむってどうやるのですか?」と質問したことがある。
そうしたら、「巻き込むっていう言い方が失礼なんだ。最初はだれもついてこなくても最後までつづければ結果みんなが一緒にやっていけばいい」との答え。
巻き込むとはつまり人にやってもらおうではなく、自分が最後までやるという覚悟をもってお願いをし続けることだ。
とはいえ、今回"巻き込む"ために気をつけたことを挙げるとしたら、

①伝わりやすい言葉をつかう
 何をやりたいのかを一言で説明することを心がける。特に伝播しやすいキーワードをあらかじめ準備しよう。

②紙の力は神の力!
 口では、キーワードぐらいしか伝わらない。だからこそチラシやレジュメのような紙の力を使おう。
たった5分でつくったものでもそれを渡すことで、思いつきじゃなくて本気なんだという感じが伝わる。
そして、紙は、持ち帰って人に伝えるときも便利だ。
紙にすることで伝わりやすくなる。

③1人以上の同志をさがす
 最初は1人から同志を増やしていくことで、自分一人ではなえがちなモチベーションをたもつことが大切。
 不思議なものでみんなの役に立つことに頑張っていれば、一人二人と必ず同志は増えていくはずだ。
 同志を増やすためにはふつうの3倍ぐらいの覚悟で頑張って準備していこう。
 仲間と連絡をとりあうことで、モチベーションを保ちつづけることが大切だ。

④化学反応を楽しむ
 はじめていくと、最初は思いつかなかったことがいろいろ起こる。
 思い付きアイデアが予想に反してあたったり、次のイベントをやることになったり、個人の仕事につながったり、メディアなどから声がかかったりと本当に様々な変化が起こった。
 当初の目的やルールとずれるからと拒絶せずに、いろいろなものを許容していくことでもっと面白くなっていく感覚だ。
 持ち寄り防災会では、地域の夏祭りの復活につながったり、子どもを喜ばせようとちょっと用意したかき氷機が好評だったり、アメリカ人在住者が英会話教室を開いてくれることになったり、コミュニティビジネスを話し合うきっかけになったりした。

 
⑤なぜか手はさしのべられる
これは、持ち寄り防災会をやってみての実感だが、みんなの役に立つということをやっていれば信じられないようにみんな手をさしのべてくれる。
老若男女も最初反対の人も、いろいろな人が手を差し伸べてくれる。
最初自分ひとりで始めるときは、何も変わらないと感じるに違いない。仲間が一人二人と増えていくにつれ大きく進み出す。物事は指数的に変化する。
あきらめずに正しい努力を積み重ねよう。


みんなで動くときのコツ
完璧は求めない
企画した側にとってやりたいことはけっこうたくさんあって、やり方にこだわりもたくさんあるものです。
しかし、自分ひとりで動くわけではないので、完璧にはできない。
1人×100点より、10人×60点=600点をねらうようにしよう。
みんなが少しづつ主体に考えて動くことによってどんどんいいものになっていくはずだ。

そぎおとしてシンプルにする
いろいろ企画をしてみると、いろいろやりたいことがでてくる。
あれもやりたいこれもやりたい。それを、人に伝えてみると、あれをやりたいのかこれをやりたいのかよく分からないとなってしまう。
だから、人に協力してもらうために、何をやりたいのかを究極にシンプルにそぎ落とす作業が必要だ。
今回の場合は、「防災訓練で持ち寄りのBBQをしたい」として、なんかよくわからんけどBBQをやるんだねというように理解してもらったからこそ多くの人に協力してもらえたんだと思う。

伝え方にこだわる
すすめたいことが、みんなにうまく伝わるとは限らない。
何をやりたいのかを一言で説明することを心がけたい。
今回は特に伝播しやすいキーワードをあらかじめ準備した。"持ち寄り"とか"防災"とか"冷蔵庫から"とか。
つまり、伝言ゲームでどう伝わっていくかをイメージしながらキーワードを打ち込んでいくという感じだ。
聞いた人が家に帰って、奥さんにどう伝えてくれるかをイメージしながら伝える。
必然的に、シンプルになる。

時間はかかる
みんなでやっていくということは、地域に多くの種をまいて育てていくようなものだ。
種はじっと見つめていても育たないが、土づくりと水やりをやっていればいつの間に育っている。
つまり、みんなに浸透していくのも色々が出来上がっていくのも時間がかかる。
でも、自分が住んでいる地域のことだからゆっくりやればいい。
あまり急ぎ過ぎると、強引だというレッテルを一生貼られてしまう。
30年かかってもいいからゆっくり楽しくやっていこう。

合意形成のやり方
文句をいわれることがまず第一歩。
地域には色々な人がいるからこそ、みんなにはかるというプロセスが大切だ。
そのためには、自治会に協力をしてもらい、役員会などで議題の一つとしてあげさせてもらおう。
その時に、不完全でもいいからたたかれ台となるシンプルな企画書が必要だ。
不完全なものをだして、文句をいってもらう。
企画書に文句が言われ始めれば半分成功と考えていい。
文句を言われ始めれば内容を理解されていることになるし、主体的に考えて始めているということだ。
また、文句を言えば言うほど関わることになり、関われば関わるほどひきづらくなる。
場合によっては文句を言われながら「もしよろしかったらその部分お任せできませんか」とうまく振っていくこともできる。
たたかれ台をつくってどんどん文句をいってもらおう。

説明とはあきらめをひきだすこと
説明や説得とは、あきらめをひきだす作業だ。
新しいことには抵抗者が多い。
だからこそ、抵抗する人に対して内容を粘り強く説明する。
また、反対者の意見をただひたすら聞く。
反対意見を聞くときに解決しようと考えなくてもいい。
最終的には、反対の思いを吐き出してもらうことで諦めてもらう。
つまり「まあ、そうはいっても協力するよ。でも○○だけはやってくれよ」という言葉を引き出せるまで説明し、反対意見を聞き続けよう。

あえてみんなにふる
だいたいのフレームを、伝えて理解してもらってから、実際進めることはできるだけみんなで考えた方がいい。みんなでやったほうがいい。
自分なりの答えがあってもすべて出さない。自分でできても自分でやらない。
プロセスを大切にすることで、参加している感じができあがり、それぞれが楽しくなってくる。
自分でできそうなことでも、うまく振って考えてもらう。
まずは値段を調べてきてもらうなど、誰でもできそうなものを任せる。
順番に職業や経験にあった自分ではできないことをお願いする。
持ち寄り防災会では、電気工事士に電気の準備をしてもらったりもした。
責任感は、関われば関わるほどあがってくる。
責任感は次第に自己重要感につながり、それは満足につながり幸せにつながる。
つまり、作業をお願いすることがみんなの幸せにつながる。

短期決戦
打ち合わせは最大3回できれば2回がベストだ。
みんなのモチベーションはそうそう長くは続かない。
わっと盛り上げて、小さな成功体験をみんなでシェアする感じでいこう。
準備も足りないぐらいでいい。足りないぐらいでみんなに改善点を口々に言ってもらうぐらいの方が次につながる。


ルール化しすぎない
最初はよく分からないことが多いので、あまりきっちりしたルール化をしない
しかし、みんなから自然発生してきたルールは議論した上で尊重した方がいい。しかし、一度決めたルールは変えにくいので十分議論することが大切だ。


子供をだしに使う
地域の子どもは宝だ。
今回の持ち寄り防災会でも、子どもたちの笑い声が多いに盛り上げてくれた。
でも、子どもたちに集まってもらうためには、仕掛けが必要だ。
そんな難しい事じゃなくてもいい。お菓子やかき氷や綿飴や金魚すくいやビンゴやWiiやひも引きなど、まずは子供だましでもいいから何か準備しておくと子どもたちは笑顔で盛り上げてくれる。
地域のイベントで子どもが集まらないと嘆いていた地域の役員さんは、サンマを焼いていた。サンマじゃ子どもは喜ばない。


組織の力を借りる
どんな地域にも自治会などの組織がある。
自治会には今まで作り上げてきたしくみがあってなかなか重たいものだ。
だから、自治会と共催はするが、主催は新たな任意団体ですすめた方がいい。
新たな任意団体をつくって、地元のコネクションをフルに使って自治体と共催していく。
自治会にお墨付きをもらい、意思決定や実働は任意団体でしていくことでうまくいく。
資金は自治体から全てだしてもらおうとか、準備をしてもらおうというのではうまくいかない。
まずは、任意団体でたちあげても本当にいい取り組みなら自治会にも理解してもらえるはずだし、2回目3回目の協力体制もかわってくるはずだ。


この指とまれ方式
みんなに強制して参加してもらうのではなく、興味ある人に参加してもらったほうがうまくいく。
細かいことは何も決まってないけど、あなたの経験を生かして何かおもしろそうなことできないかなと相談してみる。
無関心や無頓着な人を動かすのは大変だ。
やる気のない人は最初から相手にせず、少しでも興味のある人を集めることに専念しよう。
人とのつきあいはかけ算だという話を聞いたことがある。
0.7の人とつきあうと自分はどんどん下がっていくが、1.2の人とつきあうと自分はどんどんあがっていく。
地域の中の1.2がたくさん集まって、すごい地域をつくっちゃおう!


それぞれの貢献をステイタスにつなげる
お願いをし始めて、みんなが理解をし始めるといろいろな地域貢献が出てくる。
持ち寄り防災会では、みんなのお米を準備してくれた人や、BBQコンロを用意してくれた人、すこしだけと寄附金をくれた人や自前の電気設備を持ってきてくれた人などいろいろな貢献が集まる。
貢献してくれた人にお礼を言うとともに、その貢献をみんなに伝えることがその人の自尊心をくすぐる。貢献してくれた人のステイタスをあげてあげるのだ。
でもこれは目新しい方法ではなく、昔から神社への寄付は、その額に応じて木札の大きさをかえて名前が残るようになっている。


4.なぜ今?
なぜ今 地域なのか?
私は今37歳だが、残りの人生を数えてみたらあと16000日しかない。
そして、おそらくそのうちの15500日ぐらいを地域で過ごす。
そうだったら、こんなに多くの時間をすごす場所を少し過ごしやすくして人生を豊かにしよう。そんな考えがきっかけだった。
つまり、世のため人のためというよりは自分のために利己的に地域を良くしようと思ったのだ。
おかげで、散歩の途中で言葉を交わす人は増え、困った時に助けてもらえることも増えた。私だけでなく地元出身ではないかみさんも、参加してくれた人も同じように感じてくれていると思う。

みなさん30年後にどんな人口ピラミッドになっているかご存じだろうか。国は成熟期となり、年寄りが増える。
つまり贅沢にお金を使った遊びを続けれらなくなる可能性も高い。
そうなれば、自宅の周りでお金を使わずに遊ばなくちゃいけない。
車に乗らなくても、ものを買わなくても楽しくやる。
地元にあるものを楽しむことで生活を豊かにする。
そのために、地域に少し投資しておこうと思う。
地域貢献をしながら地域の友達を増やしていこう。
世のためというより、利己的な老後の年金かわりの地域貢献だ。


子どもが地域に愛着を
私の地域にも帰ってくるせがれはどんどん減っている。
十分な働き場所がないというのが大きな理由だ。
しかし、そもそも地域を好きじゃない子どもにとってみたら地域に帰る理由がない。
だから今、子どもたちに地域への愛着をもってもらう。
子どもが地域で楽しめるような機会をつくって、地域への愛着をもってもらう。
地域でがんばっている父親の背中を見せる。
それが、20年後の人口流出を防げるかもしれない。

なぜ今 社会貢献なのか?
葬式にきて、さみしく思ってくれる人は誰か?それは、家族だったり友達であったり
たかだか80歳までの間になにができるか?16000日で何をできるか?
そんなことを考えているうちに、人の役に立つっていうのも悪くないんじゃないかと思ったのがきっかけだ。
私みたいなおっさんが、年をとってきたなくなって難しくなっていけば誰も相手にしてくれなくなるけど、今からちょっとでも役に立っておけば誰かが声をかけてくれるんじゃないか。

また、30年前に比べてなぜだか、時代が社会に貢献しようとしている機運も感じる。
いろいろ便利になって時間やエネルギーをもてあましているからだろうか。
そんな社会貢献熱をうまくつむいで出番をつくってあげていけば大きな力になる。

10年前だったら30代40代の現役世代がまちづくりに貢献するなんて雰囲気はなかった。
と60代の自治会長が、言っていた言葉が印象的だった。
時代の追い風もうけながらしれっと地域を良くしていこう。

社会貢献なんか普通に考えたら煩わしい。
でも集中してやってみると、そのうちそっくりかえって楽しくなってくるから不思議なものだ。
夢中になれれば楽しい。夢中とは言いかえれば、集中すること。
たまには社会貢献に集中してみたら、楽しくなる。

最近はプロボノという、各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動がはやっているという。
地域にすむ才能や、地元出身の才能である皆様。ぜひあなたの地域にプロボノしてほしい。