肺腺がん。

喫煙しない女性がかかりやすいといわれている肺がんの一種。

純ちゃんの場合、発見時には摘出手術も、放射線治療も不可能な状態で、根治はできないと医者にはっきり言われていた。残る選択肢、抗がん剤治療はいわゆる“延命”のための治療。

治療をしなければ余命11ヵ月。普通に生活できるのは半年――。


迷っている時間はなく、1日も早く治療を、というのが医師の見解。

「第1クールは受けます。でも第2クールに進むかどうかは、自分に決めさせてほしい」

彼女はそういう条件をつけて、3月13日、抗がん剤治療が始まった。


・・・けど、第2クールへ進むことを彼女は拒否した。

「苦しい治療がつらくなって、わがままになって、周りの人にあたって、人を思いやることもできなくなったら、それはもう自分ではない。わたしは最期まで自分らしくいたいの」


気持ちはわかる。

でも、たとえ彼女が動けなくなっても、話ができなくなっても、さいあく意思の疎通がとれなくなっても、この世に存在していてほしい。

勝手な言い分なのは百も承知だけど。

「純ちゃんがいなくなったら、わたしが困るんだよ・・・」 

ようやく発したわたしの言葉に、彼女が笑いながらも涙を見せたのはこのときが初めてだった。