秩序だとか規律だとか
ぬるま湯に浸かっていると人間は
戦うことを忘れがちで
我が身を守る触覚も
すっかり無くしていることすら
気がつかなくなる
牙も爪も持たない獣の
存在の危うさよ

失われた言葉たちの
墓場はどこだ
弔うこともなく葬り去られる
魂と喜怒哀楽の報われない嘆き
美しい言葉たちでは
到底、模ることの出来ない時間たち

例えば
TOKYO
という文字で形容される
雑踏、喧騒、混沌
それこそが日常
巨大な渦に身を投じ
足早な流れの中で
自分自身は見いだせるか
求めるものを探し出せるのか

立ち止まって目をつぶれば
自分と同じ匂いの仲間が
閉じた眼でも見える
そんな
研ぎ澄まされた五感を失うことなく
生ぬるい日常に息を止めて
生き続けてやろうじゃないか


古ぼけた家の
北の出口は封鎖済み
その昔、出て行った人々が皆
再び戻ることがなかった扉
失うことを免れたかわりに
孤立した私

今、新しい目覚めに
排除を止め
南の扉を開こう
新たな人々のために
受け入れ、許すこと
それこそが贖罪

北の出口にはソメイヨシノ
別れに散るばかりの花
美しさより悲しさ

南には八重桜
幾久しく
俯きながらも
見届ける花

死んだ言葉たちへの
あわれみを込めて