父が亡くなった夜は棺の横で少し寝た。その時、夢の中に薄暗い川が出てきた。川の底には石があって色がはっきり分かるぐらい澄んでいた。目がさめたとき、これって三途の川かな?と思った。目を開けたままの父が気になり何度か閉じようとしたけど無理だった。火葬される時、炎が見えたら嫌だろうなと思って。


そして、父はとうとう目を開けたまま火葬場へ。火葬場につくと、制服を着た男性が2人やってきて、父の写真に向かって帽子を脱いで礼をした。心の中でこの方たちが火をつけるのかな?と思った。火葬場の方が「もう1度、故人に…」そのような事をいい、最後に父に祈りを捧げた。そしてまるでオーブンに入れるように父がその中に入り、蓋がバンッと閉まった。胸が張り裂けそうだった。

火葬が終わるのを待っている間、落ち着いていられなかった。もう父は炎の中にいるのかな?もし、生きていたら…とか。

親戚の方が「うんと苦しんだから、焼いてあげた方がいい」となぐさめられた。

父が棺の中で着ていた服は私が呉服屋さんで買った。数万円した。痛かったけど最後に出来る親孝行だから。

火葬が終わり、父が熱風と共に骨になって出てきた。父はやや右側を向いて棺に入っていた。右側を向いたままだった。火葬場の方が「足の指から順番に骨壷に詰めていきましょう」そう言って長い竹箸のようなものを渡してくれた。母、私、妹、親戚の方順番に入れていった。涙であまり見えなかった。頭蓋骨だけは大きいので火葬場の方が入れてくれた。


筋肉質で厳格な父は壷の中に収まった。


平成15年7月14日……朝。

父にとって、この日の朝食が人生最後の食事になった。

あの日の朝、父に「行ってきます」は言わなかったような気がする。そして顔も見ずに出かけた。60歳、70歳になってもきっと悔やみ続けると思う。