アントキノイノチ (2011) | チャレンジの日々

チャレンジの日々

見ること
読むこと
聴くこと
訪れること
いつも新たな挑戦を
いつも心に優しさを



解説
歌手さだまさしによる小説を、『ヘヴンズ ストーリー』が第61回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞などを受賞した瀬々敬久監督が映画化。複雑な過去を持ち心を閉ざした若者が、遺品整理業という仕事を通じて再生していく姿を描く。主演は『告白』『悪人』の岡田将生と、『東京公園』の榮倉奈々。2人を見守る重要な役どころで、ネプチューンの原田泰造が出演するほか、若手注目株の松坂桃李、ベテラン柄本明ら多彩な顔ぶれが脇を固める。

あらすじ
高校時代、とある事件がきっかけで心を閉ざしてしまった永島杏平(岡田将生)は、遺品整理業を父親に紹介してもらい働き始める。そこで出会った久保田ゆき(榮倉奈々)や仕事仲間と共に過ごすうちに、杏平は少しずつ心を開き始める。そんなある日、ゆきは衝撃的な過去を杏平に告白し、彼の前から姿を消してしまう。

以上、映画情報サイトより引用




吃音障碍を抱えた杏平。


高校時代も、それをからかう同級生というものはいるもので。
でも、親友の山木は、何でも話せる良き理解者でした。


そんな山木が、同じく同級生の松井によるネットいじめに遭います。

学校というのは、大人の社会と同等に、小さな世界を形成しています。
いじめなんてものは、1日でも辛いのに、入ってしまったが最後、3年も我慢しなくてはなりません。
山木は、その小さな世界で迎合する同級生たちに合わせることはできません。
間違ったことは、正さなければならない。。。。
山木は、松井にナイフを突きつけ、殺してでも正義を貫こうとします。

しかし、そこで山木を止めるために声を上げる杏平。
親友を殺人犯になんかしたくなかったのでしょう。
もしくは、松井など殺す価値もないと思ったか。。。。。

杏平の上げた声に反応した山木は、教師らに取り押さえられてしまいます。

「いいんだよ」

そう、杏平の目を見て言う山木。
味方だと思っていたけれど、杏平がこの小さな世界に迎合して生きていくのなら、それは仕方ないと。。。
全てを受け止め、山木は杏平を許したのです。
しかしその直後、山木は屋上へ走り、投身自殺します。

それを目の当たりにし、心に深い傷を負う杏平。
さらに追い打ちをかけるように、松井の悪意は、杏平に向くようになります。

この松井なる男。


他人を陥れることで、自らの地位を得ようとする、正に悪魔的な男子生徒です。
自分のミスは全て杏平のせいにして、周囲の生徒を自分に繋ぎとめようとするのです。

山岳部の合宿登山では、落石のミスを杏平のせいにした挙句、疲労と実力不足も相まって滑落。
そこを杏平に助けられるのですが、逆に自分が助けたと手柄を横取りします。

そんな策略や嘘や見栄など、1つ綻べば、全てが崩壊するものです。
たとえ子供の社会であっても。
人間というのは、周囲をよく見ているものですから。
年齢関係なくね。

しかし、社会で上手く立ち回るためには、厄介ごとに関わらない方が無難だということも、皆よく知っている。。。
見て見ぬふりは、一番楽に生きていける道ですから。

文学際の日、実際の、杏平が松井を助けている動かぬ証拠の写真がパネルとなり、展示されます。

みんな知っていたんだ。。。
本当は、自分が松井を助けたことを、教師も仲間も、みんな知っていたんだ。。。

絶望する杏平。
こんな世界はおかしい。

山木の時だって、みんな知っていたはず。
なのに、誰一人真実を口にしない。
こんな世界は間違っている。。。

心が壊れかけた杏平の前に、カッターナイフを持った松井が現れます。
パネルを見て、またしても逆恨みした松井は、カッターナイフを手に、杏平に襲い掛かります。
しかし、如何せん弱々しい松井は、杏平に組み伏せられてしまいます。
ナイフを松井に突きつける杏平の周りには人だかりが。。。

しかし、誰一人それを止める生徒はいません。

「どうして誰も止めないんだ」

杏平は我に返り、松井を離すと、パネルの写真を切り刻むのでした。。。


そして、精神が完全に崩壊する杏平。

時が経ち、治療を終えた杏平は、遺品整理の会社に就職します。

孤独死した人たちというのは、天涯孤独だから、死後人に気づかれなかった訳ではなく、多くが、家族と疎遠になっていたか、遠方で仕事に就いていたか。。なんですよね。

身内は、そんな血縁の遺品整理をする気がない。
それ故、そういう業者がいるという現実。

私はそれを知らなかったので、この事実は驚きでした。
なんて有難い業者なのだろうと思います。

真心を込めて、遺品の整理・処分をしてくれる業者。
これからの時代、より必要になっていくのではないかと思います。
高齢化社会・独居老人。。。増え続けている時代です。

孤独死を遂げた部屋、そこには紛れもなく尊い命、尊い人生があったのです。

その現場作業を通じて、杏平も次第に変わっていきます。

自分を捨てた母の遺品なんか、見たくもない、という女性に関しては、特に心を揺さぶられるのです。
何故なら、杏平自身も同じ立場だったから。
杏平は、不倫の末家を出た実母を許すことが出来ず、会いに行くことも拒んでいたのですが、それを機に、病床の母を見舞うことが出来ました。

それぞれの人生、それぞれの事情があることを、理解していくのです。

遺品整理会社の同僚ゆきも、高校の時強姦され、妊娠・流産の末に家族とも疎遠になってしまった過去を持っていました。
何度も自殺を試み、その為にお腹の赤ちゃんは流れてしまったということに、深い罪悪感を持っています。
自分の命は、その子の犠牲の上に成り立ってると考えていて。

杏平は、失った命、犠牲となった命の上に、自分の命があるというのゆきの考えが、自分と山木に重なり、理解することができます。


ある日の遺品整理の仕事は、自分がボーイフレンドと遊びたいがために、幼子を家に残し餓死させたという部屋でした。
幼子が、何の落ち度もなく死ななければならなかったその部屋の片づけ。
ゆきは耐えることが出来ず、姿を消します。

ゆきが老人ホームで働いていることを調べた杏平は、彼女に会いに出かけます。


「ここで頑張ってみる」
というゆきの言葉に、安心する杏平。

しかし、杏平の帰宅後、車に牽かれそうになっていた少女を助けるために、ゆきは命を落としてしまいます。

家族と疎遠になっていたゆきの部屋の遺品整理をする杏平たち。

ゆきの撮りためた杏平のアルバム写真を見て、涙を抑えることができない杏平。

生きるということは、死んでいく大切な人を見送ることなのかもと、思ってしまいます。
乗り越えていかなれりばいけない、ということは分かるのですが、その辛さはどうやって受け止めていかなければならないのか。

杏平やゆきのような、善意の人に訪れる不幸は、耐えがたいです。
せめて、映画という夢の世界では、2人をハッピーエンドにしてあげて欲しかったと思いましたよ。。。

私的評価星星