映画史上最大の遺産と呼ばれている映画がある。


50年の月日が経ったいまもなお、最後の超大作とも不朽の名作とも言われている「アラビアのロレンス(Lawrence of Arabia)」を、新宿のテアトル・タイムズスクエアの大スクリーンで観た。過酷な砂漠で奇跡を起こした不思議なイギリス人、トマス・エドワード・ロレンスの人生を大胆に緻密に描いている。


「この作品を見た翌日、私は監督になろうと決心した」

こういったのはかのスティーブン・スピルバーグである。


あまりネタバレもいかんので、ここでは、感想も小出しにとどめるが、全編を通じた素晴らしい様々なシーンの中でも特に感動する場面は、砂漠の横断の際に、ロレンスがラクダから落ちてしまった男を一人でわざわざ引き返して助けに戻るシーンである。、「戻れば必ず死ぬ。それがアッラーの定めた運命だ」とアラブ人戦士アリはじめ皆が反対したにもかかわらず、頑固なロレンスは制止を振り払って1人灼けつく地平線ををひたすら助けに向かう。やがて、だいぶ時が経過して、地平線の向こうに黒い点がポツンと見える。ここがデビッド・リーン監督の映画のすごいところであるが、カメラはだんだんズームしていく。すると、それがやがてしだいにロレンスだとわかる。男を抱えてラクダにまたがっている。ようやくそこで無事助け出したのだと観客は分かり安堵する。さらにすごいのは、ロレンスの帰りを待ちわびていた少年が嬉々としてラクダで駆け寄るシーン。一緒に観客も心が躍る。そして、止まりきれずにロレンスと交差する場面が美しい情景となって心に残る。


幕間に5分間の休憩がはいる227分の超大作の完全版であることに加え、また、様々なユニークな映画でもある。最初の数分間はなんと映像がなしで暗闇の中で音楽だけが流れる。最初は当惑するが次第に引き込まれてゆく。さらに面食らうのは、砂漠をイメージしている観客の目に写る最初の画面は駱駝ではなくメカニックなオートバイである。それが、」後で1935年5月13日にオートバイ事故で亡くなったロレンスの最後のシーンであることが分かる。心憎い演出である。


この映画の魅力は、ロレンスが必ずしも出来上がったヒーローではなく、様々な矛盾を抱えたやや偏屈な不器用な、頑固な人物であることも大きな要因かと思う。常識や前例にこだわらず、組織のしきたりも分別も歯牙にもかけない。片方で、所詮は国家や組織に利用されているだけであることに気づく経緯があまりに悲しい。そのロレンスの横顔が切ない。


世田谷徒然日記-l


【アラビアのロレンス(Lawrence of Arabia)】・・・公開情報より抜粋

この映画の主人公、トマス・エドワード・ロレンスはウェールズの名門の生まれで、オクスフォード大学で考古学を学んだ。第1次世界大戦が始まって2年目の1916年に、ロレンスはカイロの英陸軍司令部に勤務する。イギリス軍事情報部は、アラビアの情勢に詳しく、トルコの圧政に苦しむアラビアに深く同情していたロレンスを、ドイツとトルコの同盟にくさびを打ち込む人物として、アラビアに派遣する。 これがこの物語の背景にある。ちなみに、ロレンスの行為は戦時国際法違反であるとの批判や、イギリス側からみた一方的な見方であるとの指摘もある。なお、ロレンス自身は英国に戻った後、随員の資格でパリ講和会議に参加している。またその後軍の援助を得て、アラブ問題研究所を開設している。


完全版は1988年/英/227分 1963年アカデミー賞 最優秀作品賞 最優秀監督賞 他受賞
【監督】 デヴィット・リーン
【出演】 ピーター・オトゥール/トーマス・ロレンス  アレック・ギネス/ファイサル王子
     アンソニー・クイン/アウダ・アブ・ダイ  オマー・シャリフ/アリ