20数年も前に見た映画を再び観るというのは20年ぶりに昔の恋人に再会するような妙なときめきを覚えるものである。

徒然人にとって、そのようなときめきを覚える映画がフランス映画「シェルブールの雨傘」である。


あの出だしのシーンからもう涙腺が緩み始めてしまう。

40年以上も古い映画なのでフィルムも字の如く「雨が降る」しまつであるが、

その古色蒼然としたハンデイを上回る魅力と感動がそこに満ち溢れていた。

港町の雨降る石畳。それを上空からカメラは回る。そこを通り過ぎる赤い雨傘。行き交う水兵。

往来の人々のさす傘が美しい。このファーストシーンで一本とられた気がするのは徒然人だけではなかろう。

物語の背景は、1957年11月から1963年のクリスマスまでの6年間。舞台はフランスの北部の英仏海峡に面した港町シェルブール。

ジュヌヴィエーヴ役のカトリーヌ・ドヌーヴも美しいがそこを流れるミシェル・ルグランの音楽がまた素晴らしい。

ミュージカルといってもせりふすべてが歌になっているのがすごい。通行人が道を尋ねる一言までが歌なのである。

それでいてストーリーはふつうの映画のようにごく自然に流れていくのが素晴らしい。


最期のシーンは20年前と同様に涙が出てきて切なかった。
偶然にもシェルブールに立ち寄って昔の恋人ギーとガソリンスタンドで再会するジュヌヴィエーヴの台詞。

「シェルブールは結婚以来初めてだわ。」
そして車の中には女の子がいる。「あんたにそっくりだわ。」
「名前は?」「フランソワーズ」「会う?」 しかし、ギーは静かに首を振る。
そして、「君はもう行った方がいいよ。」黙って出て行きかけたジェヌヴィエーヴは、振り返って言う。
「あんた、元気?」 「ああ、とっても元気だよ。」これが二人の最後の会話である。

ジェヌヴィエーヴは車に乗ると黙って去っていく。
 まもなく、買い物から戻ったマドレーヌと男の子フランソワーズの方に、ギーは笑顔で駆け寄っていく。そして、子どもとふざけ合うのである。ふりしきる雪の中で映画は終わる。

最後に出会った二人は、とりとめのない会話しか交わさない。思い出も語らず、淡々としている。

しかし、二人の表情からは2度と戻らない人生の流れの重みを感じざるをえない。

フランス人の友達ならこれを見ながら肩をすくめて「セラヴィ」と言うのだろう。


20年前にこれを見た貧乏学生の自分と、いまの自分はこの間に大きく変化した。その間に職業に就き、世界も広がり

妻と出会い子供も3人に恵まれ、海外の生活を経て様々な喜怒哀楽を経て、苦労しながらも今日に至る。

その間にであった様々な友情と恋。それを経ての20年ぶりの名画との再会。妙なやるせない感動を覚えてまた越し方を振り返りあらためて自分を見つめなおす良い機会ともなった。そして2人の淡々とした再会のシーンがようやく理解できるようになった。


       

【シェルブールの雨傘】

1964年 フランス・西ドイツ(当時)合作作品   91分
原案・シナリオ・作詞・監督  ジャック・ドゥミ       
音楽                ミシェル・ルグラン   
撮影                ジャン・ラビエ 

配役

 ジュヌヴィエーヴ          カトリーヌ・ドヌーヴ         
 ギー                 ニーノ・カステルヌオーヴォ    
 エムリー夫人(母親)       アンヌ・ヴェルノン          
 ローラン・カサール(宝石商)   マルク・ミシェル           
 マドレーヌ              エレン・ファルネ          
 伯母エリーズ            ミレイユ・ペレエ