もはや世界は「パクス・アメリカーナ」の終焉段階にはいりつつあるのか。
世界は、はたしてこの「パクス・アメリカーナ」の終焉をどの程度を現実的なものと認識し、「ポスト・アメリカーナ」時代への準備をどこまで万全にしているのか。
先日IMFのアジア経済見通報告書の説明会が都内であり出席してきた。会場で様々な人々から活発な質疑応答がなされた。IMFはつい先月4月19日の報告書「世界経済見通し(World Economic Outlook)」で、高水準の原油価格がすでに広がっている世界的な対外不均衡をさらに拡大させていることに触れつつ、「世界の経常収支の不均衡が調整されていないことは懸念すべき事態である」と現実のグローバル・インバランスの実態に対して厳しい懸念を表明している。
そして、「米国の膨大な経常収支赤字は米ドル安のリスクを高めており、それが米国の金利を大幅に押し上げ、景気後退を招く可能性がある」(World Economic Outlook April 2006)とし、「現下の世界経済不均衡(global economic imbalances)が今後是正されてゆく過程で中期的に米ドルは“かなり(significantly)“下落せざるをえない」と指摘している(FT on 20th May 2006)。
またそれに呼応するように、今月5月5日にインドのハイデラバードで開催されたADB総会の前日に開催された「ASEAN+3」の会合では、こうした米ドルの来るべき危機への対応として「アジア共通通貨」の前身(precursor)としての「地域通貨インデックス(an index of the region's currencies)」の研究をすることについて触れている*。
確かにドルが今後国際収支不均衡の是正過程で相当の下落を余儀なくされ不安定になる懸念ができている状況下、ドル依存性からの脱却への対応策を準備することは不可避な議論であろう。
従来、アジア諸国はドルを輸出代金として貯蓄し、自国通貨が下がった場合には保有しているドルを売って自国通貨を維持してきた経緯がある。特に1997年のアジア金融危機で投機筋に自国通貨を売られ相当痛い目にあったアジア諸国は従前にも増してドル保有を高め、その結果、米国の大幅な赤字拡大にもかかわらずアジア諸国がドルを買い支えてきた。しかし、そのおかげで、アジア諸国は米国ほど豊かではないのに、結局米国にファイナンスすると言う妙な構図が出来上がってしまっている。貧しい国が豊かな国にお金を貸しているというのもどうみても変ではある。アジア諸国は買ったドルをキャッシュで保有していても不味なのでそれで米国債を購入し、その結果、アジアから米国に巨額のファイナンスを行い、その資金で米国の景気が維持され、その景気のおかげでアジア諸国の米国向け輸出が順調に伸び、世界中が潤うといった巧妙な仕組みができあがってしまっている。換言すれば、アジアという世界のメーカーがコツコツ一生懸命働いて稼いだ資金を、自からもっている消費者金融子会社経由で世界最大の消費者たるアメリカにファイナンスし、アメリカはその借金でアジア製品を買い、アジアに代金を支払っている。しかし、そのドルはどこから来るかといえば、金本位制から離脱した今日、単なる「国際通貨だという思い込み」に支えられた「幻想」としての米ドルでしかなく、その幻想通貨が輪転機のフル回転で虚しく増産されているのが実態である。
アジア諸国は、今後ドルを使わなくても好い体制つくりに早急に着手することが肝要である。すでに中近東諸国や南米諸国でも「ドル離れ」は着実に進捗している。それが、いますぐそこに来るかもしれない危機への唯一の対応である。
この議論は耐震偽造問題に酷似している。
国際通貨体制の耐震構造が脆弱な中、いつくるかもしれない大地震に備えて、ようやくアジア諸国が連帯してその準備に着手したところである。日本の耐震偽造問題はマンション住人がとりあえず避難転居したことで最悪の事態は回避できたが、アジア諸国は祖国を捨てるわけには行かない。
アジアでドルが唯一の基軸通貨であった時代、すなはち「パクス・アメリカーナ」の終焉の現実をしっかりとらえ、くだらないアジア諸国間の「政冷経熱」「政冷経冷」の不健康な状態から一刻も早く脱出して、この姑息で巧妙な不条理な資金還流の仕組みを我々の手で早々に是正してゆかねばなるまい。それは我々アジア諸国民を護る唯一の道である。
地震は明日起こるかもしれないのである。
*The Association of Southeast Asian Nations,
