父と娘。母と息子。

異性の親子関係というのは、健全にはぐくまれれば、これほどすばらしい関係はありません。
しかし、不健全にはぐくまれれば、これほど最悪になる関係も、また他にないでしょう。


人の泥沼の根底には、親への憎しみが流れている事を知りました。

僕は、僕を残して死んでいった母親に、少なからず憎しみを抱いている事に気が付いた。

僕は母を憎んでいる。僕を残してこの世を去って行った。僕を一人ぼっちにした。

僕は、そんな母を憎んでいる。


僕が一人ぼっちになってどれだけ辛い思いをしたか。

僕が一人ぼっちになったあとのことを、少しでも考えてくれてただろうか。

僕が二十歳になったら、僕が結婚したら、僕が子どもを持ったら、そんな日のことを、少しでも考えてくれてただろうか。

僕が道に迷ったら、そんな時のことを、少しでも考えてくれただろうか。


母さん、あなたが僕に残したものは、父さんに対する負けん気だけだ。

僕が父さんよりもすごいことをする男になる。あなたが僕に残したことは、そんなことだけだ。

僕はそんな亡霊に突き動かされて、世界中を旅し、父さんが知らない世界を知り、父さんにはできない事を懸命にやってきた。


そんな僕に今残っているものは、虚しさだけだ。

旅があんなに楽しいものだとは知らなかった。僕は、生きてく上で楽しいことを何か知ってるだろうか。

母さんと過ごした時間の中で、楽しかったことの記憶が何か残っているだろうか。

僕は、母さんのおもちゃでもなんでもない。

僕は、だれのものでもなく、僕である。

僕は、今日から、もう僕になる。母さんの亡霊とは、もう決別する。




「今はもうだれも」   アリス