昨夜はDVDを観た。
沢尻エリカの「クローズド・ノート」。
世間ではいろいろといわれているけど、結構好きだったりする・・・




私は、いつもあの人をただ待つことしかできなかった。

私は、いつもあの人の背中を追っていた。

あの人は、いつも私を置いて、どこかへ行ってしまう。



毎朝、私はコップ1杯の水と1枚のビスケットをかじって、仕事に出かける。
満員電車に揺られるこの日常に、すっかり慣れてしまった。
私は、都会の中にうずもれた自分の存在を、誰にも知られたくない。
誰も私を見つけないでほしい。そう願っている。

闇の中にうずくまって私は考える。
私に明日は来るんだろうか。私の未来はあるんだろうか。


あの人が私を捨てた。
その事実が私を狂わせた。

今でもあの人からの連絡を待っている。
ただひたすら、あの人からの連絡を待っている。


私はときどき考える。
なぜ、あの人は私を捨てたのか。
私があの人の重荷になってしまったのか。
私があの人の背中に食い込むような鎖を絡みつけてしまったのか。

あの人は私のすべてだった。
あの人がいなくなって、私は空っぽになった。
あの人は私を捨てたんじゃない。

あの人は私を汚したくなかった。だから、私から離れて行った。
だから、私をそっと独りにした。


愛なんて言葉は信じていない。
幻想だと思う。
その時の寂しさを埋めたくて、みんな寄り添っている。
ただそれだけだと思う。
私もそんなひとり。

寂しくなったら、その日その夜、私を温めてくれればそれでいい。
自販機で買うカップコーヒーのように、その場で捨ててくれていい。
私がそれを望んでいるのだから。

夜が好き。昼間はまぶしすぎて、私は生きていられない。
夜は私と同じ闇。
夜は私の闇をそっと包んでくれる。

夜になると私はほっとする。
私は、夜になると闇から這い出てあるところへ行く。
そこは真っ青な空間。
私はそこへ行くと、幸せな気持ちになる。

そこにはいつも私を抱いてくれる人がいる。
私が望むような言葉をかけてくれて、私が望むような仕草をしてくれる。
私は彼のことを恋人と呼んでいる。

恋人はいつも違う人。
昨日の夜は、外国人だった。
青い目をしていて私になにか話かけてきた。
私がなに?と聞くと、今度は私を抱きしめた。
私は恋人の髪をなで、頬を寄せた。
恋人は嬉しそうな顔をして、私から離れた。
少しずつ少しずつ後ろに下がっていき振り向くと、私に背中を向けてどこかへ行った。

ある夜は、少年だった。
眠そうな顔をして私に近づいてきた。
私がこっちにおいでというと、少年は私にしがみついた。
私は少年を抱きしめおでこにキスをした。
少年はにこっと笑って、私から離れた。
少しずつ少しずつ離れていき、くるっと背中を向けるとどこかへかけていった。

恋人は毎晩違う。そしていつもどこかへ行ってしまう。
私は青い部屋に座りこむ。そしてそこにうずくまってただひたすら眠る。
朝になると、私はいつもの闇に身を横たえている。

そんな毎日。そんな日々。

救われるのは、私には行かなければいけないところがあるということ。
私の微々たる能力を必要としてくれる会社がある。
私の人生は、その会社と青い空間の往復だ。

それでもこうしてなんとか命がつながっているのは、今でもあの人からの連絡を待っているから。



寂しい夜、寂しい男が私に群がる。
私は一番寂しそうな男を選ぶ。私よりも寂しくて、私よりも孤独な男。
そして、私はコンビニで買ったおにぎりのように、お腹をいっぱいにし、捨てる。

最近は青い空間に行かなくなった。
気が付いたらもう朝になっている。
そして、私の闇は黒ではなく腐った泥水のようになっていた。

もう私にはこの闇から這い出る力もない。
世の中がみんな濁って見える。
美しいものなど何一つない。

赤いバラは、私には落ちていく花びらにしか見えない。
この花瓶の中の澄んだ水のかわりに、わたしの泥水をいれたらどうなるだろう。
そんなことしか考えなくなってしまった。

白い小さな小菊は、ただ目ざわりなだけだった。
皆が水をやる上呂の中に、わたしの泥水を入れた。

一番私を苛立たせたのは、青い水仙だった。
それを見ると、かつて通った青い空間を思い出す。
もう私には手の届かない青い空間。
もしかしたら、青い水仙はそこに咲いていたかもしれない。
今はそれすらどうでもいい。

青い水仙は、何かあると私の泥水にあらわれる。
そして、私の泥水を吸って泥まみれになる。
泥まみれになりながら、まだそこで咲こうとする。
私の泥水は渦巻き、青い水仙を押し流す。

青い水仙はそんな風に私の泥水をただ渦巻かせるだけだった。

私もかつては花だったかもしれない。
小さな黄色いタンポポのような花だったかもしれない。
踏みつけられても地面に根を張りけなげに咲く、タンポポだったかもしれない。

いつのまにか綿毛は汚水の中にしか飛ばなくなった。
もう根を張ることは出来ない。ただそこに醜く浮いているだけ。

誰もすくい取ってくれない。誰も目を落としてくれない。


私は、ただあの人のことを考えた。
あの人は、この醜いタンポポに、あの頃の私の面影を見つけてくれるだろうか。
この汚水に近寄ってきてくれるだろうか。
私がこうなってしまったのは、あの人のせいだってことを、考えてくれるだろうか。

そして、それを申し訳ないと思って、私をすくい取ってくれるだろうか。
あの人の食卓の上にある花瓶の底にでも、私を沈めてくれるだろうか。

私はずっと待っている。
どこまでもどこまでも醜くなって、あの人が私を捨てたことを後悔することを。

もう私にはそれしかできない。
私のすべてだったあの人が、私を捨てたことを後悔する。後悔して、涙を流す。
それが、それだけが、私が幸せになれる方法。

だから、この都会の中で、誰も私を見つけないでほしい。



汚れて消えそうな私を、あの人にだけ見つけてほしいから。






今日の1曲。平井堅 「エレジー」