アンティークの硝子瓶
ひとめぼれしてしまった!
カイルアにある老舗のアンディークショップ
『アリイアンティークス』。
「なんかすごいよ~、いろんなものがごちゃごちゃ積んであって!」
と噂には聞いていたのだが、
実際行ってみると、聞きしにも勝るアンティーク&ジャンクのカオス
店の中を歩くだけでも、ものすご~く注意してないと
うっかり何かにぶつかったら最後、
悪夢のドミノ倒しか!というスリルに満ちあふれている。
そんななか、私もものすご~く気をつけながら、
お宝の山をほぐしてゆき、
吟味に吟味を重ねること3時間、
パイレックスのタッパーウエアのなかから、
お気に入りのデザインのものを見つけた。
レジのところでオーナーの奥さんと、
ヒロのアンティークショップの話などでもりあがっていると、
さっき届いたばかりだというバターケースを見せてくれた。
なんと、色も模様も、私が買ったタッパーと
よ~く合うではないか。
.....思わず買ってしまった。
「セットで買ってくれたからね~!」
と奥さんは何もいわずに一気に3分の1くらい
値引きしてくれた。
こういう買い物って楽しいね!
聞けば、この店は2号店で、
道の向こうにはおじさんがやってる1号店があるというので、
さっそく行ってみる。
1号店のほうは、2号店よりずいぶん整理されていた。
それにしてもアンティークって、いまいち値段のつけかたがわからない。
高そうなものが以外にお買い得だったり、
がらくたみたいなものが結構いいお値段だったり。
そこで、私がひとめぼれしたのが、この硝子瓶だった。
Pyrexのタッパーが3つくらい買える値段で、
どうみてもどっかからの拾い物の埃にまみれた硝子瓶...。
その日は心を決められず、
さんざん眺めたり、触ったりして帰った。
その翌週、たまたま骨董好きの友達とこの店に来ることになったときも、
私はまだ迷っていた。
こんなにたくさん、値打ちものだって溢れている店のなかで、
どうして私は、このただの拾い物の硝子瓶が気になってしょうがないんだろう?
硝子瓶は、見ればみるほど趣を増し、
手に柔らかくなじんできた。
もう、ここに置いて帰る理由がないので、
持って帰ることにした。
オーナーのおやじさんによると、
この硝子はホノルルのダウンタウンで掘り起こされたもので、
100年以上前のものらしい。
私がさんざん迷った話をすると、
「アンタはラッキーだったよ。
一度いいと思っても、戻ってきたらもうないことだって
よくあることなんだからね。」
まったく、アンティクショップのおやじさんらしいセリフである。
その古い硝子瓶を買ってから、今で2ヶ月ちょっと経つ。
毎日、その瓶を窓辺に置いて、
古くてあつぼったい硝子に透ける光を眺めたり、
小さな花を一輪差して窓辺に飾ったり、
写真を撮ったりして、じっくり楽しんでいる。
時間を経て、人の手を経て、生き長らえてきた美しいガラクタは、
ときに、まるで魂を持っているかのように、
なにか話しかけてくるような気がすることさえある。
この硝子瓶は誰かの役にたったあと、瓦礫の下に埋もれ、
100年の時を超えて、アンティーク屋のおやじのもとへやって来た。
店のかたすみで、誰かが見つけてくれるのをじっと待っていた。
そしてなんだかよくわかんないけど、
ひとめぼれで離れられなかった私の家に連れてこられて、
今、新しい命を輝かせている。
先だって、ふと花を差しているときに、
「そっか、この硝子瓶は、私がいなくなったあとも、
まだこの世にいて、また誰か新しい人にもらわれてゆくかもしれないんだ。」
ということに気づいて、なんとも不思議な気がした。
ただの拾い物、なんていうのは私の戯れ言で、
私には瓦礫の下に埋もれて100年も生きるような芸当はできない。
アンティークスというものが、
どうしてこんなにも人の心を揺さぶるのか、
少しだけ、腑に落ちたような気がした。