上の続きです
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「......欠勤?」
今日は木曜だぞ木曜!電話の向こうから大きな声を張り上げる課長。
なぜ倒産した会社に課長は出社しているのか...
「はぁ倒産!?昨日社長から電話が!?馬鹿!お前のような平社員に直接社長から電話がいくと思ってんのか!」
さっさと出社しろと怒鳴る課長の声に俺の頭はだんだんと覚醒していくのだが...今の状況の方が夢みたいだ。
なぜ...?俺はインドに行ったんじゃ... う”!?
28年生きてて聞いたことがないような、龍の唸り声なのではないかという音が腹から発せられた。
「は、腹が...っ、」
「なんだ今度は仮病を使うつもりか!?」
そ、そうだ、ガンジス...!これは...ガンジス川の水を飲んだから...!
俺は必死に説明を試みるも、お前は日帰りでインドに行ってきたのかと鼻で笑う課長。
「と、とにかく腹痛が収まり次第出社します...!」
「おいっコラッ──」
俺はスマホを放り出しトイレへと這っていった。
頼む!間に合ってくれ...!
.
.
.
.
俺のちっぽけなプライドは 死守された。
神よ…ありがとうございます!
オレンジ色に染まった街を窓から眺め、世界はなんて美しいんだろう...!
俺は今とても穏やかな静寂に包まれている。
しかし何故ヒトはトイレで腹痛と戦っている時に神に祈るのだろうか。
これは全ての宗教に共通しているのか、はたまた日本人特有のものなのか。
それとも、もしかして俺だけ?
「キュウゥゥン...」
そんなことを考えていると腹は甘えた子犬のような鳴き声をだしやがる。
現金なもんだ...
体内の悪い物を全部出し切ったような爽快感と心地よい空腹。
俺は財布を後ろポケットに突っ込むとアパートを出た。
「明日出社するのが怖いなぁーっと」
まぁしゃあない。
あれは夢だったのかな。
今朝の課長以前の着信は4日も前だし、もちろん、二年前に亡くなっているお袋からの着信履歴もあるわけがなかった。
夢。
その一言で片づけるにはあまりにもリアル過ぎる体験だ。
商人に売りつけられた指輪が残っていればな~。夕焼けの空に手をかざしてみるもそれは無くって。
でも、あの男...俺をガンジスに突き落とした奴の言葉はなぜか頭にクッキリとこびり付いている。
「てぃ、ティン...サール...うーーん、ヒンディー語、勉強してみようかなぁ!」
実際インドに行くことがあるかも知れないし?それに、案外適性があったりしてな...♪
流暢なヒンディー語でインド商人をやりこめている場面を想像し、俺はくふふと笑みを漏らした。
この日以来、俺は肉と魚を食べなくなった。酒も飲まない。
というより、受け付けなくなったという方が正しいか。
思えばあの猛烈な大下痢で今までの悪い物が全部流れ出たんだろう。生まれ変わった体は不要なものハッキリと拒絶するようになったのだ。
それから、ヒンディー語も習い始めた。ごくごく簡単な言葉がわかるようになり、あの男性が何て言っていたかもわかった。
तीन साल बाद आओ
3年後に来い
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あぁぁ...最初に書いたサドゥーのセリフ間違えてたわ...
あれは「三年前に来た」だったわ...なんたることじゃ。
次で終わります!