↑の続きです

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

見れば何のファッション性もなく黄色い石が無骨にハマっただけの指輪。しかも台座は金ときたもんだ。

正直ダサイ部類の物で俺は困惑する。

そして18000ルピーが安いのか高いのか、そもそも本当にその値打ちがあるのかまがい物なのか...インド初心者の俺には皆目わからない...!

 

 

「えっと…ちょっと考えます…」

 

 

そう言って逃げるようにその場を離れようとすると、商人はさらに笑顔を深め、俺の腕を軽く引き止めた。

 

「ノーノー!コレは運命変える指輪ネ!インドの占星術ジョーティシュ、知ってますか?イエローサファイア、金運アップ!悟りの道、ラクに行ける!」

 

 

金アップと悟りの道って同じカテゴリなのか…?

内心ツッコミたくなるも、彼の勢いに圧倒されて言葉が出ない。ガンジス川を眺めに来ただけのはずが、いつの間にかインドの不思議な商売の渦に巻き込まれたような気分だ。

商人の勢いに気圧されつつも俺はなんとかその場を離れようと試みたが、

 

 

「本当にスペシャルプライスよ!他の店はもっと高い!ワタシニホンジン特別扱いネ!」

 

 

運命を 変える。その言葉がずっと頭の中で反芻している。

気づけば「18000ルピーでいいんだね?」などと口にしている俺。

 

現金を手渡すと商人はニコニコしながら指輪を俺の手に握らせた。

 

 

  「アリガト!アリガト!これであなたの人生、very very good になります!」  

 

 

笑顔で去っていく商人を見送ると改めて指輪をしげしげと眺める。

...大阪のオバちゃんだって付けないんじゃないかなぁ。

まあコレもひとつの旅の思い出かと、俺は無造作に人差し指にそれをはめた。

 

さてさて、もっと間近でガンジス様を拝みますか。

 

実は沐浴するかどうかまだ決心しあぐねている。

インド人たちからすればとっても有難い川なのだろうけど、日本人で何の信仰も持たない俺からすると得体のしれないお世辞にも綺麗とは言えない川だ。

何のためにインドまで来たんだとも思うが、手で水に触れるくらいでも十分なんじゃないかな...

 

グズグズと悩みながら寝そべっている犬やボンヤリと川を眺めている人をすり抜け下へと降りていく。

その足がピタリと止まった。

 

何者かに唐突に足首を掴まれたかのような。自分の意志ではない何かが働いたかのような。

そんな不思議な感覚だった。

 

ゆっくりと顔を横に向けると、サフラン色の薄汚い布を巻き付けた男が足を組み目を閉じている。

 

インドでは別に珍しい光景でもなんでもないんだろう。

でも、目が離せない。

 

何て言うんだろ、その男の周りだけ異様に静かというか空間が切り取られている感じと言うか...まさか死んでいるのでは!?

 

微動だにしない男の生死を確かめるべく俺はもっとよく観察する。年の頃はサッパリわからない。

 

 

「うゎ...っ!?」

 

 

突如男が目を開きギョロっとした双眼で俺を見据えた。

生きていたという安堵感よりも威圧感の方が勝り思わず半歩後ずさってしまう。

 

立ち上がって手にしていた杖を振り回しながら何事かを喚きはじめる男。

英語なのかヒンディー語なのかすらわからない。さっきまであんなに静かだったのに...!

 

アレだ、まるで電池切れだと思ってた玩具が突然にぎやかな音を発するような...またはひっくりかえっていた蝉が急にジジジと鳴き喚いたような。

とにかく心臓は冷や汗をかいた。

 

 

「 तीन साल बाद आओ!」

 

「ちょっ...!待っ...!」

 

 

この細い体のどこにこんな力が!?と思うほど男は俺を力強く引きずりながらガートを下りていく。

左足のサンダルが脱げ、右足も脱げ...ガートの淵まで行くと男は俺のデイパックに手を掛けそこでようやく「追い剥ぎ!」だと警鐘を鳴らす脳ミソ。

 

 

「やめっ──」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

結局指輪を買ってしまったヤマダ...!

そして謎のサドゥー!どうなるヤマダ!!