↑の続きです

 

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予約確認のメールを眺めていたその瞬間、冷や汗が滲んだ。


「会社…どうすんだ俺…!」


明らかに勢いで航空券を取ったが、有給は残りわずか。

そもそも、そんな長期間休む理由が見つからない。いきなり「悟りを得るためインドに行きます」とか言ったら、確実に変な目で見られるだろう。


「いや待てよ、何か理由を作ればいいんじゃないか?」


瞬間的に思いついたのは「自己探求のための長期休暇」。聞こえはいいが、あまりにも唐突だ。上司にどう切り出すか考えていると、今度は会社の携帯が鳴った。

 

電話の向こうから響いたのは、社長の異様に明るい声。


「ヤマダ!我が社は今日で倒産することとなった!なのでもう出社はしなくてよろしい!」


一瞬、何を言われたのか理解できなかった。倒産?俺の勤めてる会社が?まるでドラマか何かの台詞のようで、現実味がない。


「冗談…ですよね?」

「いやいや、本当だよ!昨夜決まったんだ。まあ、人生ってそんなもんだろ?じゃあ、元気でな!インドでもどこでも好きなところに行け!」


まさかの展開に、俺は携帯を握りしめたまま固まった。冷や汗がさらに滲む一方で、なぜか少しだけ肩の荷が軽くなった気もした。


「…本当にインド行っちゃうか?」


そうつぶやいた俺は、もう一度航空券の予約確認メールを見つめた。

 

 

 

パスポートとスマホと、カネ。

これさえあればたとえ初めて行く国だったとしてもどうにかなってしまう。

そんな味気なくも素晴らしい時代。

 

というわけで、俺は生まれて初めてバラナシの地を踏んだのだった!

 

デリー空港の華やかさと近代っぷりにインド=汚いとの認識を改めたものの、バラナシの旧市街地は相当な汚さである。

ガンジスを拝むべくそそくさと市街地を抜けガートへと向かう。

 

 

「おぉ~あれがガンジス...?」

 

 

子供の頃は車窓から遠くに海がチラリと確認できただけでもはしゃいだものだが。

俺の心は特に浮足立つこともなく淡々としていて、それが自分でも少しガッカリだった。

 

トートツに前世の記憶が目覚めて感涙にむせび泣くとかいった事前の妄想は霧散し、でもせっかくだからとスマホのムービー録画をONにする。

 

ガンジスを映しその360度を撮影しようと体をグルリと回転していけばスマホ画面いっぱいに満面の笑みのインド人がフレームインした。

 

 

「スミマセン。ちょとイイですカ?」

 

「.........」

 

 

阿部寛も及ばないほどの濃い顔の商人らしき男に人懐っこい笑顔を向けられ、あぁともダメとも言えず固まってしまった俺に彼は矢継ぎ早に捲し立て始める。

 

 

「コレはジョーティシュの指輪ね。インドのヒトみんなつけてマス。very very high qualityのイエローサファイアの指輪ですネ。日本だとてても高価。

ワタシニホンジンとてもスキだから25000ルピーだケド18000ルピーでイイヨ!」

 

 

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どうなるヤマダ!インド商人から逃れられるか!?

 

つづく!?