雨月物語より菊花の約
ちょっと最後にポカーンとしたのだけど、まあ簡単にまとめてみたのでお暇な人は読んでみて下さい。
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清貧を貫く男、左門。
ある日、出掛けた先の家の主と談笑していると壁を隔てて苦しむ声を聞く。
主曰く、
卑しからぬ武士らしき人物が一宿求めてきたので泊めてあげたは良いが、その夜からタチのワルい熱が出てもう3,4日経つ。
思いがけない過ちをしたと困っている。
左門
それは大変ですね。
しかし熱を出している彼はもっと気の毒です。
私が看病します。
伝染したらヤバくない!?と心配する主を爽やかに宥め、左門は薬を選び、自ら処方し、粥を食わせ、そりゃあもう甲斐甲斐しく看病したのだった。
武士感涙。
死んでも御心にお報い致す…
そんな武士を左門は元気付け、真心込めて看病するうちに病は快方へと向かった。
武士は身の上を左門に語る。
ザックリ書くと、武士(右衛門)が密使で城を開けている隙に前の城主である尼子さんに城を襲われて主が死亡。
密使先で「襲ってきた奴を討って!」と頼むも却下されたあげくその地に引き留められてしまう。
こんな所に用はねぇ!とコッソリ逃げ出し自分の国に帰る途中、病に倒れて左門の手を煩わせることになってしまった…というわけだぁ!
そんなこんなで左門と右衛門は仲良くなって義兄弟の契りまで結んじゃう。
左門の母も大歓迎!
春が過ぎ、夏がやってきたある日…
右衛門
「故郷が気になります。様子を見たらすぐに戻り、貧しいながらも懸命にご恩を返したく思います。
しばしの暇を頂けないでしょうか」
左門
「わかりました。それでは兄上、いつ頃お戻りになりますか?」
右衛門
「月日は往きやすいものです。この秋には必ず戻ります」
左門「秋の、何日に定めてお待ちすればよいのですか。それをどうか決めて下さい」
右衛門
「九月九日、重陽の節句をもって帰り着く日と致しましょう。」
左門「わかりました、日にちを間違えないで下さいね。私はこの日に一枝の菊と心ばかりの酒を用意して兄上をお待ちしております。」
2人は心を込めて言葉を交わし、右衛門は故郷へと帰って行った。
月日は流れ。。。
菊は咲き、九月九日の重陽の節句の日
ウキウキと朝から菊を飾り酒を用意する左門。
故郷の出雲は遠く、今日中に着かない可能性もあるのではという母親にもなんのその。
空は澄み渡り旅人の往来も多い。
しかし昼を過ぎても右衛門は姿を見せない。
日は沈み月が昇り、番犬の遠吠えがどこからか聞こえてくる。
明日には帰ってくるかも知れないからもう家に入れという母親の声にも耳を貸さず、待ち続ける左門。
とうとう月の光もが山の向こう側へと消えていく。
左門が諦めかけたその時、風に吹かれる陽炎のようにやってくる人物…
右衛門が姿を現した。
左門歓喜!
ずっと待ってたんだからぁ!疲れたでしょう?さ、中に入って入って!
お酒も用意してありますよヾ(o´∀`o)ノ
右衛門
「。。。。。。」
それまで無言だった右衛門は長いため息をついて口を開いた。
「実は私はもうこの世の人間ではないのです」
左門
「な、なんだってー!?そんなの信じられないよ!?」
右衛門
「故郷へ帰りましたところ、国の大半の人々は尼子(右衛門の主を討った奴)に従っておりました。
丹治という従兄弟が尼子に仕えていたので、頼んでそいつに会わせてもらったのですが、尼子は兵の統率力は高いが猜疑心の強い人間だった。
もうここに居ても仕方ないと思い戻ろうとしましたが、尼子は私を疑い丹治に命じて私を城内の牢に閉じ込めたのです。
そしてついに約束の日になってしまった。
約束を破ろうものなら、あなたは私をどのように考えるだろうと思うとひたすら気分が沈みましたが、古人の言葉には
人は一日に千里をいくことは出来ない
しかし魂ならば一日に千里をいくことができる
とあります。
この言葉を思い出して私は自ら命を絶ち、今夜風に乗ってはるばると重陽の節句の約束を果たしに来ました。
どうかこの気持ちだけは察して下さい。」
言い終わると右衛門の目からは涙がボタボタと零れ、「これで永いお別れです。母上によくお仕え下さい」と言って席を立つようにかき消えてしまいました。
「兄上ぇー!!」
左門は慌てて引き留めようとしますが、夜で目がくらみうつ伏せに倒れ、そして倒れたまま大声で泣きました。
その声で目を覚ました母親が左門を抱き起こし、
そんなに恨んでいては明日帰ってきたときに見せる顔がありませんよ。
違う、兄上は約束を守るために帰ってきたのだ。約束を守るために自害し、魂となって帰ってきたのだ。
そんなまさか、水に渇いている人間は夢の中で水を飲む。お前もそれに似た夢を見たのでしょう。静まりなさい。
左門はガバと起き上がり
「兄上は確かにここにいたのです!!夢ではありません!」
そう言ってまた声を上げて泣き倒れました。
母親ももはや疑わず、一緒になってその夜を泣き明かしました。
翌日…
左門は右衛門を弔うべく出雲に行きたいと願い出る。
「なるべく早く戻って安心させておくれ。長く留まり今日を今生の別れとしないでおくれ」
そう言う母親に「命はいつ果てるとも知れません。しかし必ずや戻ってきます」と左門は涙を拭い出雲へと向かう。
出雲に着くと彼は右衛門の従兄弟である丹治を訪ね、旧主を捨て尼子に仕え不義をしていること、血縁者の右衛門を自害に追いやったことを詰り、そして抜刀し斬りつけた。
城の者が騒いでいる間にその場から逃げ去る左門。
それを伝え聞いた尼子は、兄弟信義の篤さに同情し、左門を強いて追わせることはしなかった。
あぁ、軽薄の者とは交わりを結ぶべきではない
†
これ、最初は「えっ、こんな良いお話なのに、軽薄者との約束のお話なん!?」
と思ったのですが、そうじゃなくて、
「こいつらの信義は素晴らしいな!やはり軽薄な奴等とは交わらない方が良いな!」
ってことですよね…?
色んな解説を見ると…
右衛門が軽薄説やら左門が軽薄説やら、はたまた丹治が軽薄説やらあるのですが。。。
にしても左門がヤンデレぽいような…
右衛門に幽体離脱やらルンゴムやらのテクニックがあれば死なずに済んだものを。。。(-人-)