《父親への手紙》


貴方が旅立ってからずいぶん月日が流れました。私には貴方に対する良い思い出は片手の指の数ほどしかありません。いや、むしろそれより少ないかもしれない…。
思い出すのは鬼の様な形相と、小さな私を殴り付ける大きな手。
それだけ
悪いことをして怒られたなら分かるけど、貴方の怒りは、私の『笑い声がウルサイ』とか、『泣き声が邪魔』だとかいうのが理由。
歯科技工士という手先に神経を集中させなければいけない仕事をしている身としては、子供…しかも女の子の甲高い笑い声や、やたらとデカイ泣き声は神経を逆撫でするに他ならなかったんでしょうが、殴られる方にしてみれば、貴方がなぜ怒っているのか、自分はなぜ殴られるのかなんて分からない。理不尽な恐怖でした。




『子供は充分な教育とお金と物さえ与えておけば、素直に育つもの…』
貴方の心の中にこんな考えがあったのではありませんか?



『頭が良くなければ人間じゃない』

ここでは書くのをはばかられるような差別的言動。

『世の中で《先生》と呼べるのは教師と医者と弁護士だけ』

貴方のそんな偏った考えに、私は追い詰められていたんです


小さな頃の私が、親戚の人たちから
『笑わない子供』
と言われていたのを知っていますか?
毎日のように勤め先の院長の頭が良くて賢い二人の息子たちの話や良くできる従兄(自分の弟の息子)の話ばかりされてたらどんな風に思うか分かっていましたか?
子供らしい笑顔をなくし、いじけて当たり前。それを越えていこうなんて思うほど大人じゃない…ただの平凡な小学生なのだから。


貴方の期待に応えたい気持ちと、それができない自分へのもどかしさ。
期待に応えられないから愛してくれないんだ…
小さいながらもそんな風に思ってた。



私は貴方に愛されたかった。物や金銭を介した愛情じゃなくて、心からの『愛』が欲しかった。
贅沢かな…。



これ以上書いていたら、恨みつらみばかりの手紙になってしまうので止めておきます。



最後に一言。

『私は貴方のようにはなりたくない』

そう思って生きてます。今までも、そしてこれからも