チャン・ビンは、医師として世界に通じる一流の腕を持っている。
それだけではない。
武術の面でも一流の腕を持っていた。
俺と対等に戦う事が出来るのは、この男かムン・チフ様くらいだった。

その男が、黒ずくめの覆面男2人に地面に押さえ込まれていた。

チャン・ビンの目が、俺に早く逃げろと言っていた。
彼奴を置いて、俺が逃げる筈がない事など、
彼奴が一番良く知っている筈なのに。

それでも、早く逃げろと俺に訴えていた。
逃げて生き延びろと。

俺は、ゆっくりと後方に下がり
落ちている刀を蹴りあげて拾った。

まだ、うまく息も出来ない程に鳩尾の痛みが続いている。
それでも、俺は刀を前に構えて気を集中させた。

ウンスが待っている。
ウンスの元に必ず帰る。

そう心の中で、何度も唱えていた。

すると、目の前の黒ずくめの男が刀を鞘に収めた。

何だ?
戦う気が無いということか?

その男が静かに話し出す。
「俺たちは、お前の敵じゃない。」

そう言った奴が、俺の目をじっと見ていた。
「俺達は、赤月軍だ。
ムン・チフ様の命令で動いている。」

赤月軍?
昔、ムン・チフ様から聞いた事がある。
決して顔を見せない闇の組織で、
国家の為に影で動いている隠密集団だと。
法では裁けない、悪人を抹殺する事も仕事だと聞いた。

本当に赤月軍だとしたら、この人並み外れた強さの理由が証明できる。

赤月軍は、軍や警察の中の精鋭の中の更にその上を行く者、そしてムン・チフ様に選ばれた者のみだけが入隊を許される。
つまり、人間離れした強さを持つ者だけが入る事を許される部隊。

チャン・ビンを振り返ると、解放されていて
押さえ込んでいた男2人は後方に下がって此方を見ていた。

訳がわからないチャン・ビンは、扇子を握りしめつつ、俺にこの状況を説明しろと目で訴えていた。

チャン・ビンが解放された事や、目の前の男からは相変わらず殺気すら感じられない事からすると、この男の言っている事は本当なのかもしれない。

だが、油断する事など出来なかった。
赤月軍の話は聞いた事があるが、誰1人顔を見た事はない。
本当は、キ・ヤンの部下とも考えられる。

俺は、刀を鞘に収めることなく握りしめていた。

その時だった。
目の前の男が鞘から刀を抜いて、凄まじい早さで俺に向かって来た。

キーーンと音を響かせ、俺の目の前10センチの所を、男の刀の刃先が通り過ぎていった。
その動きが早過ぎて、全く動けなかった。

だが俺は無傷だった。
カタリと石が転がる様な音がした。

何だ?
下を見ると、真っ二つに割れた銃弾が転がっていた。
男がすぐさま、違う方向へと走っていく。

凄いスピードで。

そこには、上半身だけ身体を起こし、拳銃を此方に向けているキ・ヤンの姿が見えた。

直ぐ立て続けに2発を発泡したが、黒ずくめの男には全く当たらなかった。
軽々と弾を避け、そして、キ・ヤンの目の前にまで辿り着いた男が、キ・ヤンの銃を真っ二つに切り裂いた。

ゴトリと、銃が地面に落ちたのが見えた。
「大統領の暗殺を企てた容疑、
罪の無い民間人を自分の身勝手な理由で苦しめ、
傷付けた容疑、それに俺に銃口を向けた容疑で処刑する。」

そう言った男が、己の刀をキ・ヤンの胸に突き刺したのが見えた。
その刀を掴んだ、キ・ヤンの手が地面にパタリと落ちた。

全て終わった。
全ての元凶が死んだ...。

俺の身体の力が抜けて、刀を支えにしながら地面に跪いた。

奴が刀を収めて、俺の元へと戻って来た。
俺の前に跪き、俺の目を真っ直ぐ見て来た。

その目は、誰かに似ている様な気がした。
「本来であれば、自らの手であの女を葬りたかったと思うが、お前が殺せばただの人殺しになってしまう。あんな奴の為に、己の手を血に染める必要などない。」

そう言った男が、俺の肩に手を置いてから立ち上がった。
「悪は俺達が断つ。
お前が戦う戦場はここではない。
お前の戦う場所で戦い、そして大切な者を悲しませるな。」

そう言いながら、男が再びキ・ヤンの元へと向かった。
キ・ヤンの躯を肩に担ぎ上げる。
「この女は俺が手を下した。故に、此方で対処する。それから、もう1人居た七殺も、下の階で俺の部下が取り押さえ連行した。
お前の部下が、取り押さえた七殺も此方で連れて行き、処分する。」

そう言った男が、飛び上がり屋上の手摺りの上に登った。
あの女を肩に担いでいるというのに、いとも簡単にだ。

「名前は?」
俺は、何気なしに奴にそう聞いていた。
奴が目を細めて笑っていた。

「お前にだけは言いたくない。」
そう言った男が、また飛び上がり、今度は隣のビルの屋上へと着地した。

隣のビルとマンションの合間は3メートル程、そして高さは隣のビルの方が数メートル高い。

そんな場所まで飛び上がる事が出来るなんて、
人間の出来る事ではない。

チャン・ビンを押さえ込んでいた2人は、キ・ヤンと共に居た今は意識の無い七殺の両脇を抱え、最初に行った男と同じように、屋上の手摺りに飛び乗ったあと、隣りの屋上に飛び上がり着地していた。

赤月軍か。
面白い男だ。
だが、どう考えてもあの男の部下になどなれないだろう。
俺に、あんなビルの合間を飛び越える様な脚力はない。

俺が戦う場所で戦えか...。
俺は、男の言葉を思い出していた。

家を守り、仕事を頑張れという事だろう。
余計なお世話だ。

しかし...
隣のビルに飛び上がった時に、
奴の頭に白い猫の様な動物の耳が見えた気がしたのだが...。

いや、そんな筈はないな。
余程疲れているらしい。

俺は、隣のビルの屋上から人影が見えなくなってから、チャン・ビンの元へと戻った。


















どうでしたか?
彼の正体は、分かりましたか?
「赤月隊」は、ヨンが高麗で所属していた組織ですよね。
「赤月軍」は・・・、
私が勝手に作った闇組織です。
国会議事堂の地下にあり、黒ずくめの彼が隊長として働いています。
「赤月隊」が、私の何のお話しに出てきたのか分かれば、「彼」の正体はわかりますよね!

昨日の時点で、「彼」の正体がわかった人がいたら、相当なハルマニアかと思います(笑)



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