朝になり目が覚めると、チェ・ヨンが身支度を整えている所だった。

 
ウンスは寝台から体を起こして、チェ・ヨンに声を掛けた。
 
「テジャン、おはようございます。」
 
声を掛けられたチェ・ヨンは振り返り、ウンスに笑みを見せた。
「よく眠れたか?
お前、寝相が悪いな。」
 
「え!?テジャンの事を蹴飛ばした?」
ウンスの言葉にチェ・ヨンが笑った。
「一緒に寝た事覚えているのか?
てっきり寝ぼけていて覚えていないかと。」
 
「覚えてるわ。
椅子ではぐっすり眠れないし、疲れはとれない。
狭いけど、横になった方が楽でしょ。」
 
「襲われるとは思わないのか?」
 
「約束を守って一週間会いに来なかったのでしょ?
あなたは約束を守る人だってわかったから。
昨日、手を出さないって約束したし。」
 
「そうか。」
チェ・ヨンが嬉しそうに優しい笑みを浮かべた。
 
「テジャンは、優しい顔もするのね。」
 
「何か言ったか?」
 
「何でもない。」
 
「そろそろ朝食の時間だ。遅刻したら、朝飯抜きだぞ。」
 
「え!?皆で食べるの?」 
ウンスは慌てて寝台から足を下ろした。
 
「痛っ!」
 
「どうした?」
 
「筋肉痛だわ。昨日沢山走ったから。
足も体もあちこち痛い。」
 
「俺から逃げた罰だな。」
そう言ってチェ・ヨンは笑っていた。
 
笑いながらも、顔を洗う桶を近くまで持ってきてくれた。
それで顔を洗うと、乾いた布を手渡してくれる。
 
「テジャンが優しい・・」
ぽつりとウンスが呟くと、チェ・ヨンが笑った。
 
「俺はいつも優しくないのか?
お前には優しくしているつもりだがな。」
 
チェ・ヨンは、櫛を手にすると、椅子に座っているウンスの後ろに回り、ウンスの長い髪をとかし始める。
「それくらい自分で出来るわ。」
 
「俺が好きでやっているんだ。
やらせろ。」
チェ・ヨンが丁寧にウンスの髪をとかしていく。
 
「男の人に髪をといてもらうなんて、
初めて。
何だか、変な気分ね。」
心地いいような、くすぐったいような感覚にウンスが笑っていた。
 
「お前の髪は柔らかくて、いつも甘い香りがするな。」
 
「私が作った石鹸で洗っているの。
テジャンにも今度わけてあげる。」
 
「ヨンとは、呼んでくれないのか?」
 
「え?」
ウンスは思わず振り返りチェ・ヨンを見た。
 
「昨晩は名で呼んでいたのに、今はテジャンだが。」
 
「私が名前で呼んでいたの?
半分寝ていたから、その記憶はないけど。」
 
「付き合っているんだ。名で呼べ。」
 
「ヨン・・様って?」
 
「ヨンでいい。」
 
「テジャンがそれでいいというなら。
そうするけど・・・。本当にいいの?
こんな小娘に呼ばれて嫌じゃない?」
 
「小娘?
名で呼べ、構わん。
さあ、朝飯を食べに行くぞ」
 
そう言うと、チェ・ヨンはウンスを抱きかかえた。
「え!?テジャン!後からゆっくり歩いていくから、先に行ってて。
さすがにこれで御飯食べに行くのは恥ずかしい。」
 
「歩くのが痛いのであろう?
この方が早い。
名で呼ぶのはどうした?」
 
「あ・・・・努力します。・・・ヨン。」 
 
ウンスはチェ・ヨンの腕の中でチェ・ヨンの顔を見上げていた。
 
真っ直ぐ前を見るテジャンの顔は凛として、でも優しい顔をしている。
結局、一晩一緒に寝てしまった。
でも、嫌じゃなかった。
テジャンが抱きしめてくれたのもわかったけど、
温かくて・・・・。
体だけじゃなくて心も温かくて嬉しかった。
 
こんなこと、思ってはいけないのに。
 
 
ウンスは抱きかかえたられたまま、
兵の食堂に連れていかれた。
 
チェ・ヨンの部屋から抱きかかえられ出てきたウンスを見ていたウダルチ達は、何やら想像して、皆がニヤケ顔を見せていた。
 
「え!?こんなに多勢で食べるの?」
食堂には50人ばかりなウダルチが席について、チェ・ヨンの到着を待っていた。
 
「こんなにも沢山人が居るって知っていたら、
化粧してくるのに・・。ノーメイクよ。」
 
「十分美しいから気にするな。」
しれっとそんな事を言うチェ・ヨンをウンスは呆れてみていた。
そんな恥ずかしい言葉をよく言えるわねと。
 
チェ・ヨンに抱きかかえられて来た女人を皆が興味深々に見ていた。
 
チェ・ヨンの腕から降ろされたウンスは、皆の視線に居た堪れなく、視線を彷徨わせていた。
ゆっくりとチェ・ヨンの後ろに隠れる。
 
そんなウンスに笑みを浮かべてから、前を見てチェ・ヨンが声を出した。
 
「遅くなった。
この者は、俺の婚約者でユ・ウンスだ。」
 
チェ・ヨンがそう紹介したの聞き、
後ろに居たウンスがチェ・ヨンの隣りに出てその脛を蹴った。
「つっ・・。何を。」
 
テジャンを蹴る女人にウダルチ達が驚き、
その様子を見ていた。
 
「皆の前で何を余計な事を言っているの?
恥ずかしいから止めて。
皆に名前を知られてしまうでしょ!?」
 
「もう、皆が知っているから安心しろ。
早く座れ。時間がなくなる。」
チェ・ヨンが座り、その隣にウンスも座るとすぐに目の前に食事の用意がされた。
 
チェ・ヨンが食事に手をつけると、ウダルチ達も一斉に食べ始める。
 
凄い勢いで食べていくウダルチ達やチェ・ヨンをウンスは呆気にとられて見ていた。
 
ウンスも負けじと、大きな口を開けて食べ出す。
 
それをチェ・ヨンが吹き出して笑いながら見ていた。
「お前はゆっくり食え。
ウダルチは、次の組と交代せねばならんから急いでいるんだ。
男だから食べるのも早いしな。」
 
「そうなの?
そういえば副隊長さんもユチョンさんも居ない。」
 
「宮中の警護で立っている。
そろそろ交代の時間だ。」
 
「そっか。ウダルチは忙しいのね。
テジャン、先に行って。
私はゆっくり食べさせて貰ってから行くから。」
早々に食べ終わったチェ・ヨンにウンスはそう言った。
 
「今日から宮中で働くのか?」
 
「うん。とりあえず、チェ尚宮のお屋敷に戻って荷物を取りに行かないと。」
 
「道が分からぬであろう。
俺は一緒に行けないから、
ウォルに同行させる。
ユチョンは、まだ本調子ではないから、
何かあると困る。
ウォルにまた何かされたら報告しろ。
いいな。」
 
そう言って席を立ったチェ・ヨンを見送ると、
先からウォルとユチョンが共に歩いてきた。
 
2人はウンスの姿を見つけて、ウンスを挟んで両隣りに座った。
「ウンス、大丈夫か?兄者がウンスを抱えていたと皆が噂をしていたが、
朝まで寝かせて貰えなかったのか?」
 
「あ・・・。全身筋肉痛で、そしたら抱きかかえられて。」
 
「は!?全身筋肉痛になるほど寝かせて貰えなかったのですか?」
ユチョンが驚きの声をあげてウンスを見ていた。
 
「え?」
なんとなく言っている意味がわかったウンスは顔を赤らめながら首を横に振った。
 
「ち・・違うの。昨夜、皇宮に戻る前にテジャンから逃げて凄く走ったのよ。
夜はそれで、夜はぐっすりよく寝て、
テジャンは隣りで寝たけど何もなかったわ。」
 
「では。寝台をともにしたのですね・・・。」
ユチョンが寂しく呟いていた。
 
「ユチョン、そろそろ諦めたらどうだ?
下手に手出しすると殺されるぞ」
 
「煩い!副隊長に言われたくないです。」
そう言ったユチョンがウォルを睨みつけていた。
 
 
朝食を終えたウンスは、ウォルと共にチェ家の屋敷に向かっていた。
 
ウンスと共に馬に乗るウォルが、ウンスの後ろで手綱を引きながら話しだす。
 
「ウンス・・・俺の所為で悪かったな。
ただ・・・ひとつだけ言っておきたいのは、あの時は悪ふざけだったとかではなく、
あの時は純粋にウンスの事を守りたいと・・・・。いや、俺の気の迷いだ。
兄者に殴られて、兄者のお前に対する思いの大きさを感じた。
あの思い・・・誰にも敵わない。」
 
「あの・・・・ハルとは・・・、話したの?」
 
「いや、顔を合わせられないし、ハルも避けているようだ。
振り出しに戻ったな。
まぁ、自分が招いた事だ。
仕方ない」
 
ウンスは二人の仲を何とか改善したかったが、
ハルもウォルに会おうとしなかった。
 
「副隊長さん、今日の夜、時間あります?
仕事が終わったら薬草園に来て貰えますか?
渡したい物があって。」
 
「今では駄目なのか?」
 
「準備が必要だから・・・」
 
「なんだ?」
 
「その時に教えます。」
ウンスは、皇宮に戻るとハルに同じ話をして、薬草園で待ち合わせをした。
 
ハルとウォルには、顔を合わせて話し合いをしてもらいたかった。
自分が招いた事だから、早く何とかしたいとウンスは考えていた。
ハルには幸せになって貰いたい。
それに笑っていて欲しい。
 
 
 
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