勧められるままに 部屋の中に入りソファーに座った。
必死になって探し当てたものの、まだ不安は消えない。
本当に今居る場所でいいのだろうか?
自分の依頼は どこの探偵社でも断られたものである。
イメージでは かなりの風格の男の人で、経験豊富な感じの人だと思っていた。
それが 今目の前にいるのは どう見ても普通の女の人である。
しかも 『話は聞いてます』と言ったということは、この人がここの部屋の主の
可能性がある。
どうみても 違和感がある。
女ー黒川は そんな事を考えていた。
その黒川の目の前に タオルが出された。
「結構濡れてますね。使ってください」 部屋の主らしい女の人が笑顔で言った。
「あ、ありがとうございます」
そういってタオルを受け取る。
黒川の向かい側に眠そうな女が座った。
「始めまして。私がここの事務所の高村星華です」
そういうと 両手で名刺を差し出した。
なんだか 不思議な感じの名刺だわ。黒川はふとそう思った。
ちょっとセピア色で アンティックな感じがする。 古いだけではなさそうだ。
しばらくすると コーヒーのいい香りが漂ってきた。
「黒川さん、ここは探偵と名がありますが、主に探し物を扱っております。
なにかお探しなのですか?」
優しく暖かな声で星華が聞いた。
迷っている。
ここまで来て、来た目的を言い出しにくいのか、言うのをためらっている。
「言いにくいのもわかります。ここに来る人はたいがいそうです。コーヒーでも飲んで リラックスしてください。
あ、 聞きもしないでごめんなさい。コーヒーでいいですか?」
頭に手をやるながら 照れ笑いのような表情で星華は言った。
「えっ あ、はい」 ふいをつかれたように言われて焦るように返事を返す。
緊張し、うつむき加減な黒川の目の前に 暖かなコーヒーが置かれた。
目の前に現れたコーヒーが目に飛び込んできた。
いや、実際にはそのコーヒーを持つ手が目に飛び込んできて、その手に釘付けになったのだ。

