特集・夏の上品メーク
「表情」につながる形容詞は人間の数と同じほどある、と言われています。豊かな表現力のある顔は、それだけで魅力的。麻美さんの好きな花、くちなし、すみれ、桜、アンセリウム、黒いバラをキーワードにして作った5つのメークと表情のイメージ。“いい顔作り”のヒントと、あなたなりの表現方法。きっとこのなかにあるはずです。

ジェイ・ジェイ1987年 小林麻美
私の好きな、それは「くちなし」です。
甘い香りに初夏を感じさせてくれる花、季節を運んでくれる花…。その清純な美しさの裏にあるもうひとつの顔。むせぶような濃厚な匂いで人を魅了し、殺してしまうこともある。その秘められた美しい毒に惹かれてしまう。

私の好きな花、それは「すみれ」です。
深い森の大きな木の片すみにひっそりと咲くすみれ。まるで長い冬の終わりを告げるかのように…。本当にはかない可れんなイメージは、永遠に女性のなかにある少女の姿に似ている。とても好きな花。
いまの自分はよくわからない。10年後に、過去の“私”をふり返ったとき、“あのころはよかった”と思うかもしれないし、“いまのほうが、断然いいわ”と言えるかもしれない。私はいつも後者でありたいと思う。年齢を重ねていくごとに…。
単純に大人の女に憧れていたころは、「男と女」のアヌーク・エーメふうとか、フェイ・ダナウエイが好きだったけれど、ほとんど外面しか見えていなかった。でも、ある日気がついたの。外見でも素敵に見える者は、実は、その人の内面からあふれているということに。ヘアリンスしたり、顔のパックをするのと違って、心の問題は、簡単にかたづけられないのよね。私の場合は、単純に興味のあることを追求していくだけ。そんなときに大切なのは、どれだけ自分を自由に、多くのものをキャッチできる精神状態にしてあげるかということ。目で見て美しいと感じるものは、カメラでとらえるワンショット、ワンショットと同じ。そのときの感性で驚くほど違って見えてくる。すべての人が同じ感性を持っているはずはないんだけれど、流行もあって、みんな同じ顔でなきゃいけない、と思いこむ時期ってあるでしょう?
同じヘアスタイル、メーク…。もちろん、いい意味での必要だけど。私自身、まだその過程にいるのかもしれない。でも、オリジナリティの大切さは、ひしひしと感じるようになった。表面だけではなく生き方に対しても。
同性の目で見て素敵だな、と思う女性は、たとえば「死刑台のエレベーター」のジャンヌ・モロー。タバコを吸う仕草や表情よりも、ひたすらひたむきに人を愛する姿が印象的。よけいなものをかなぐり捨てた、潔い生きざまに憧れるんです。
人間はみんな、ないものねだりが強い。もちろん私も例外じゃない。たとえばマドンナを見たら、“あんな体型になりたい” “髪がブロンドだったら” “肌がもっと白かったら”なんて、すぐ考えるタイプ。コンプレックスのかたまりで育ってきたから、自分のなかに嫌いなところもたくさんあったの。いちばんのコンプレックスだった、おでこを人前に出した
のは21歳のとき。広いおでこがイヤで、前髪をいつもおろしていたものに、CMの仕事で髪を全部うしろにひっつめたの。おでこを大衆の面前で出すなんて、ワナワナしちゃうくらい恥ずかしかった(笑)。ただ、それをきっかけに、嫌いな部分も、少し違った目で見直すことができたみたい。結局、欠点は自分自身が受け入れなければ、何もはじまらない。コンプレックスのない人なんて不思議だし、そういう人は、反対に魅力も色あせてくるのでは。欲を言ったらきりがないけれど、いまは自分の顔を、まるごとどーんと引き受けちゃえる。好きだナって言えるの。

神秘性、力強さ、妖しい毒…。人は架空のものをとおしてさまざまなイメージをふくらませる。たとえば黒いバラ。私にとっては、それは憧れ。この世に存在しえないもの、手にはいらないものへの憧憬が詰まっている。
朝、気分の乗らない日。
まっ赤な口紅を塗ってみる。でも、結局、落としてしまうこともある。
気分転換にメークを変えても、やっぱり満足できない…。そんなときは、内面的にも自分を思いっきり変えてみたくなるんです。
小さいころから、言葉に出して言えなかったり、感動を表現するのが下手だった。
もっと素直に気持ちを表わせたら…。それはとても素敵なこと。そんなときの表情は、どんなものよりも生き生きと輝いているはずだから。