手持ちのワードローブでコーディネート
とっておきの 
秋の服 

日常着として活動している服、7年も前に買って、いま初めて着る服…。麻美さんのワードローブは、実に多彩。好きな場所に出かけるときに着る、とっておきの服。ひとつひとつか、彼女にとって、心の通う服なのです。

ジェイ・ジェイ1987年 小林麻美

私、服の色に関しては、けっこう神経質かもしれない。自分の顔色が悪いこと、よく知ってるから。人それぞれ、顔の色によって顔映りのいい色は違うでしょう?たとえば色白の人がサーモンピンクやベビーピンクを着れば、淡くて、ふんわりしたきれいさがよく出るし、浅黒い人が着るとくすんでしまう。反対にグリーンを色白の人に合わせると、青白く見えて寂しい感じとか。そういう意味で黄色や土のような色の服は、あまり持っていないですね。黄色を使うときは、黒に対するポイントで加えることが多いんです。たとえば、今日みたいに、エルメスのポロニットにストールをする着方。ストールは大好きな小物のひとつで、かなりいっぱい持ってるの。手編みだったり、生地を買ってきて縫ったり…。これは4、5年前に買ったコム・デ・ギャルソンのもの。香港で見つけたニットは、何を隠そうエルメスっていう感じで、全然らしくないところがヒットでしょ。



このコーディネートは、なんと言っても靴が主役。本当はね、去年買ったシャネルのカシミアのセーターには、タイトミニを合わせようと思っていたんです。それが、つい最近このショッキングピンクのローヒールを買って、“あっ、これはフレアーをあわせたほうが絶対に可愛い‼️”と思って変更。私の場合、今日はこの靴が履きたい、このベルトがしたいっていうメインがはっきりしていて、じゃあ、それに何を合わせましょうか、というところから入っていくの。だから組み合わせてグラつかないんです。スウェードのグィード・パスクァーリの靴、大人が着るには適度な丈のグィード・パスクァーリのミニフレアー、両方ともお友達のブティックで見つけました。靴で遊びっぽいデザインや色のものって、あまり持ってないけれど、このパスクァーリだけは別。ひと目で気に入って4色のなかから選んだの。そして今日が、履きおろし。初めてこのピンクで歩いたのは、大好きな飯倉片町。私にとって飯倉は、あらゆるものがつまっている町。青春の思い出深い店、キャンティやハンバーガー・イン、憧れを秘めたもの…すべて。10年間で原宿は、エーッて声をあげて驚くぐらい変わった。でも、飯倉は不思議なほど昔のまま。お茶を飲んだり、おそばを食べに行ったり、いまでもやっぱり、いちばん落ち着ける、そんな場所。



パリにエッフェル塔があるように、ニューヨークには自由の女神があって、トーキョーには、もちろん東京タワー。東京で生まれ育ったから、思い入れもあるし、タワーに明かりがつくと、まさに“都会の夢”という印象。小さいころ、父と一緒に行ったとき、混んでいて入れなくて、定期だけ買って帰ったのを、写真みたいに覚えてるの。いまは、冬の夕暮れどきに出かける。展望台からは夕焼けの向こうに富士山が見えて、夕やみに一瞬一瞬溶け込んでいく様子がとってもきれい。服も、気に入ったものは、古くなってもずっと好きだし着続ける。古いのと新しいものを組み合わせて着るのが私流。コートは最近買ったY'sプラスすごく昔から持っているサンローランのスーツからパンツを流用。靴はモードフリゾン。ベージュ系同士の微妙な色合わせは、わりと難しいけれど、フワッとした雰囲気にまとめたい気分だったから。ふだんは、黒とかキツイ色と合わせてピッとさせるんだけれど…。わざと無知乾燥な男っぽいコートに、くちなしのコサージュをつけてみたの。いま、肩パッドの入っていないテロッとした素材のものに注目しているところ。



紫色のサンローランのスーツ。これは私にとって因縁の服。松竹の映画「真夜中の招待状」を撮っていたころだから、約7年前。新宿のサンローランで買って以来、今日まで一度も袖を通していないの。もう忘れもしない‼️あの時(笑)。
悔しくて毎年、着ようと思い出すけれど、どうしても似合わない。とにかく、紫が好きで、スーツだから一生ものだし、バーゲンじゃないけど、エイッ、買っちゃぇって思い切ったのに…。この服は、色といい、形といい、難しくて一歩間違うと銀行の受付ふうになっちゃうんですよ。失敗したと感じてから2年間ぐらい悩んだりして(笑)。タンスのこやしになりそうな服でも戦うしかないし、いつか必ず料理してやるって、粘った甲斐があった。やっと着こなせるようになったみたい。小物の合わせは、私が定番的に愛用しているシャルル・ジョルダンの9センチヒール。何と言っても、女性の足をもっとも美しく見せてくれるパンプスだから、大切に管理して、5、6年は、履いてしまう。シフォンのスカーフも、学生時代からのお気に入り。でも、これは下品にならないように黒に限ります。このスーツに無事、袖を通すことができて、その服の似合う年齢って、もしかしたらあるのかなってつくづく感じましたね。悲しい感慨とともに…(笑)。


黒のベルベットを着ると、心のなかまで落ち着いてくる。反対に派手な色を着るのは、楽しいからか、悲しいからか…。自分でもよくわからないけど、そんな気分の日もある。最近は、いままで考えてもみなかった、赤やピンク、グリーンが新鮮に思えて、服に対するキャパシティがどんどん広がってきたんです。昔から、うんと地味か思いっきり派手か、はっきりしているのが好き。5、6年着こんでるスタジオVのカーディガンは、なかなかほかの服と合いづらいクセもの。くだけた印象で着ることが多かったですね。インナーを黒のタートルにしたり、白のタートルに黒のパンツとか。全体に色がきてるから、派手に派手をぶつけてしまうか、浮かないようにラフにするか両極端。素材も色も負けない、ベルベットの赤やグリーン、もしくは洗いざらしのヨレヨレジーンズなど…。そうしないと、極彩色のものは、単純に派手だけで終わってしまう。私は足元にグィード・パスクァーリの靴でポイントを作ってバランスをとってみました。動きやすくて、座っても平気なスタイルで、めいっぱい遊び気分のディズニーランドへ。日本の夏祭りが威勢のよさなら、ディズニーは夢のお祭り。そこにいる間は年齢や職業を乗り越えて楽しめる。私の世代は、ウォルト・ディズニーの世界、ダンボや101匹ワンちゃんで育ったから。子供のころのままに、ミッキーマウスは生きている、と信じている自分をいつまでもとっておきたい。