リフレッシュした自分を見つめる旅
石原真理子のスペイン
ジェイ・ジェイ切り抜き1987年3月号
もちろん、候補はいっぱいあったけれど、〟あっ、決まった!〝という、真理子流直感で、出かけることになったスペイン旅行。いつも奥のほうに隠れてる自分と話したい、という彼女の希望どおり、地元の人たちと出会い、ふれあいながら過ごした手作りの旅。マドリッドを中心に、元気に楽しんだ10日間のレポートをお届けします。
マドリッドにある、世界でも5本の指に入る規模のプラド美術館。ゴヤの名画、2枚の「マハ」の前で。
うん、やっぱりこれ!
ホントに水を得た魚になれちゃう。これが、スペインの旅に出てきた、いまの私の素直な気持ち。日本にいるときは、つい隠してしまいがちな自分自身や、ギュッと押さえてしまうエネルギー。知らず知らずのうちに内側に閉じ込めてしまっていたたくさんのものが、この国の空気を吸い込んだとたん、ワーッと勢いよく解放されていくみたい。ああ、これが本当の自分、これが自然な私って、やっと自分らしさと出会えたみたいで、とってもうれしい。
ともと海外旅行に行くのは大好きで、年に一度は外国の土を踏んでいたの。女優の仕事を始める前、子供のころから、人前に出るとしっかり自分を隠しちゃうタイプ。自分の意思より他人の目、他人の気持ちばかりを考えて、ついつい縮んでしまう自分を、一年に一度〟自然〝に戻してあげること。それが私にとっての海外旅行の大きな意味みたい。とくにこの国、スペインは全然違和感がなくて不思議なくらい。ニューヨークは〟頑張ろう!〝って意識して、はじめて一体感が味わえるところ。でも、スペインでは、ありのままにしているだけで、街と空気と人と、スーッとひとつになれちゃう。昔住んでたことがあったような、この景色を以前に見たことがあるような、デジャ・ヴの感覚。自分を無国籍のボヘミアンだと思ってたけど、実は私の血はこの国から流れてきているのかもしれないな、って、いま強く思ってるの。
ひとりで歩いたマドリッドの一日時間を忘れて思い切りエンジョイ
マドリッドは、本当に親しみやすい街。レストランで、ディスコで、そして街なかで…。思わず〟オーラ!〝って挨拶を交わしたくなる、明るい地元の人たちと出会えました。感激して、笑顔の大サービス。仕方ないですよね。
マドリッドの中心的な建てもの、王宮の中庭で警備員のおじさんと記念撮影。最初はいかめしい顔をしていたのに、カメラを向けるとニッコリするあたり、いかにもスペイン人!
本当のところ、真理子さんはいったいナニモノなのか?ちょっぴりイジワルなマスコミ、熱狂的な真理子ファン、そしてそのほかの一般的なお茶の間の人々のあいだでも、このギモンは、かなり興味深い問いかけであるに違いない。でも、この質問に、いまいちばん興味をもっているのは、誰よりも、実は当の本人、真理子さんなのだ。
「小学生のころから、自分は何になるんだろう、どんな〟自分〝になるんだろうって、よく考えてたの。ほかのことを考えるより〟自分〝ってものについて考えるのが、何より好きだったみたいなのね」
ロドリーゴの〟協奏曲〝が生まれた地アランフェス。王家の休養地の名が似合うエレガントなたたずまい
でも、真理子さん自身が語ってもいるように、彼女は人前で自分をさらけ出すことが、大のニガ手。そのため、これまでは、なかなか思いきって自分自身を表現することができず、心のドアのノブを両手でがっしり握っていた部分が強かった。
「どんなに親しくなっても、最後の部分絶対に見せてあげない!っていうね。それと私ってもともと柔軟すぎるところがあるから、しっかり鍵をかけて自分をしまっておかないと、アメーバみたいに自分が流れ出て行っちゃいそうで、こわかったの。でも、最初、そのアメーバ状のものがだんだん固まってきて、戸をあけて解放してやっても大丈夫かなー、と思えるくらいになってきたのね」
プラチナのように頑丈な自分自身とまではいかなくても、自分のカケラはなんとかつかまえられるようになってきた、という現状。
「でもね、そうしたら年をとるのが急にこわくなっちゃったの。前は、いつ死んでもいいやって、なんとなくなげやりだったんだけど、自分が見えてきたいまは、時間がとっても惜しい!若さや顔のカタチっていうことだけじゃなくて、私がもっと私になるためのプラス・アルファ。30歳を過ぎても、多少シワが出てきても、みんなが〟やっぱり石原真理子っていいね〝って言ってくれるような、私だけの〟何か〝をどんどん身につけたいのね。やりたいことが、いまたくさんあるの」
「TINPANO」は、顔パスになるほど通いました。地元の人とも、たちまち打ちとけてマドリッドに大勢の友達ができたのがウレシイ!