non・no 1986年11/5発行
愛のモノローグ
女は、男の優しさで大人になれるものです。
安田成美
「今は、男の人のしょげている顔が好き。」
ソッと開くと、ツリーがポコンと飛びだすクリスマス・カードを作ったことがあるんです。
細かく切った金の折り紙でデコレーションしたかわいいツリーでね、結構、あれこれ考えて手間ヒマかけて作ったの。
それを、ちょっと憧れてた男の子にあげました。
彼はヘーッなんて喜んでくれた。ただ、それだけ。


でも、私はそれで満足だったんです。自分をアピールしようなんて気持ち、全然なかった。自分が作った物が、今、彼の手の中にあって、しかも、わりあい気に入ってくれたみたい…なんて思うだけで、ジワーッと幸せだったりしてね。
私、いつもそうなんです。
中学生・高校生のころの自分を思いだすと、いつも家でゴロゴロしてて本読んだり、ちょっとした小物をチョコチョコと作ってる姿が思い浮かぶの。


毎日セッセとセーターを編んで、だれかに着てもらうのが楽しみだったのね。
フカフカと編んだセーターが長く着ているうちに、ところどころ玉ができちゃって、普通のセーターと同じになっちゃうのを見ているのが好きだったんです。
とにかく物を作るのが大好きで、将来はデザイナーになりたいなんて、フッと考えたりしてた。

ジェイ・ジェイ1987年12月
ちょっとザラつく秋の口もと。
しっとりなじむと、メイクがぐっと冴えてくる
花王ソフィーナファンデーション

通っていた学校が、女子美術大学付属高校っていう女子校だったせいもあるのかな。
ひたすら手工芸少女でした。なんかいつも自分だけで完結しちゃってるっていうか、ほのぼのと自分だけで満足してる部分があったんですよね。
「これでいいんだもん」って感じ。
それは、男の人とつき合うときも同じ。

花王ソフィーナファンデーション

やっぱり自分だけで完結しちゃってる。
男の人はいつも自分より偉い存在で、自分はただついて行けばいいと思ってたの。
彼の話すのを聞いて、笑ったり、うなずいたりしていれば、ふたりは温かい関係でいられると思ってたんです。

ジェイ・ジェイ 1987年12月
つけて軽い。だから動き、美しい。
自然、そしてあざやか。花王ソフィーナ口紅

自分の思うまま感じるままをぶつけて、もしかして相手が傷つくのを見るのもイヤだし、相手から嫌われたりするのもイヤだったのね。
だから私、男の人と話してて怒ったことなんてなかったの。怒る資格なんて私にはないし…って気持ちもあって。

ジェイ・ジェイ  1987年12月
つけて軽い。だから動き、美しい。
自然、そしてあざやか。花王ソフィーナ口紅


でも、しばらくつき合っていくうちにだんだんと分かってきたんです。
男の人もやっぱり私と同じ人間なんだな、って。
どんなに特別に思う人でも、尊敬してる人でも、弱気になっちゃうときがあるんですね。
自信満々でやってきたことが、何かの拍子にダメになっちゃったりしたときの男の人の横顔…見てるとせつなくなる。

ジェイ・ジェイ 1988年12月
表紙   モデル/安田成美

どんなときも平然としている人が、突然、心のコントロールがきかなくなってワガママいうとき…つい怒りたくなる。
私が自分の意見をいったりしたら、彼はムッとふくれるかもしれない。
「そんなこと、いわれなくても分かってるよ」なんてね。
でも、そうなってはじめてふたりの間に温かい気持ちが通い合うんだと思うようになりました。

ジェイ・ジェイ 1990年8月
表紙    モデル/安田成美

人間って、自分の未熟さや欠点を知ったとき、フッと優しくなれるんだと思います。
いつも受け身だった私をつねに高い所からリードするだけだった人も、私とステップを合わせて考えたり悩んだり喜んだりしたいと思うときが、きっとあるんだと思う。
かつて、TV ドラマに出演したとき、共演者のかたから、「この子さえいなけりゃ、もっとおもしろくなるのにな」と思われないようにしようと、ただただ必死だった私です。でも、今は自分の中からあふれてくる地のままの私を演じてみたい。

ジェイ・ジェイ 1987年5月
傷に強いプラスチックレンズはNikon
日本光学工業株式会社


私はもう内気な少女じゃないんです。
自分でも気づいたいなかった〝戦闘的〟な自分を、思う存分解放してみたいんです。
そして、戦闘に疲れたら、私は家庭に帰るの。両親が作った家庭じゃなくて、私とダンナ様が作った家庭にね。
ひょっとして、その家庭でも、〝戦闘〟するかもしれないけど──。
そうすればするほど、そこは温かい心の日だまりになるんじゃないかしら。


自分の選んだ道を