ジェイ・ジェイ雑誌 1989年8月
インタビュー 石田純一 いしだしゅんいち
新時代の〝いい男〟研究
イタリアンテイストが似合う石田純一

若い頃から人気があったわけではない。昨年、結婚したが、それによって支持者が減ったフシもない。いわゆる大爆発のないまま、着実に時代をとらえ、その魅力を磨き続けてきた都会派。しかしその横顔とは裏腹の、波乱万丈の青春が彼の背後にはある。運動部、文化部、硬派、軟派、何でもこいのオールマイティ、あらゆる方向に感性のアンテナを広げた、新時代の
〝いい男〟がいる。

石田純一の時代がやってきた、と言いきっても決して大げさじゃないくらい、いま、〝いい男〟と言えば、この人をおいて他にはない。ソフトで、ライトで、明るくて。でも、単にそれだけの男性じゃない。あらゆる方向に感性のアンテナを広げ、都会の空気を楽しみつつ、リアル・タイムに生きている、これまでの〝いい男〟像とは、かなり違ったタイプ。なによりも、俗に言う芸能人っぽいギラギラしたところがないのが、とってもウレシイ、さわやかな34歳だ。

「僕自身は、10代の頃から全然変わってないから、いま、いい男として騒がれるのが不思議なくらいですね。でも、ここ2~3年、そういう存在として見られるようになってきた、っていうのは、僕の個性と、時代の流れがちょうど合ってきたせいじゃないのかな、と思ってますけど」
とにかく、俳優になる以前から好奇心が人並み以上に旺盛で、なんでも自分自身でチャレンジしてみなくては気が済まない、自称〝欲張りな性格〟。

ちょっと古いたとえでナンだけど、「柔道一直線」のように、柔道だけひと筋にというよりは、「ハリスの旋風」のように、半年間は剣道で一番になって、次の半年は野球で一番になる、という生き方を理想としてきた。
「まずスポーツは、ゴルフ、テニス、スキーと、ひととおりやりましたね。いろいろできないと自分の交際範囲が狭くなっちゃうでしょ?いくらテニスの達人でも、ゴルフができなきゃ、ゴルフの好きな仲間とは遊べない。ちょっとステキな女のコから、スキー教えてって言われても教えてあげられない。それって、なんとなく悔しいじゃないですか。だから、何が来ても平気だぞっていう感じで、とにかくひととおりのものはマスターするようにしてきたんです。女のコを抱きしめたときに、〝あら、この人、意外と筋肉質のからだしてるのね〟と思われたいばっかりに、スポーツ・ジムにも密かに通ったし(笑)」

おしゃれの面でも、スタイリストにたよらず、自分自身でチェックして、本当に自分に似合うものを探してくる。10代の頃は、オックスフォード地のシャツにこだわったアイビー。いまは、ベルサーチ、アルマーニなどのイタリアものを、西武デパートなどに気軽に出かけてコーディネートしてくる。同じ値段で車を買うのでも、いろいろ乗ってみなくちゃわからないから、国産のブルーバード、スカイラインに始まり、BMW、ベンツまで6台の車を乗り換えている。
「若い頃は、女のコにモテたい、あらゆる面で魅力的な男性と思われたい、という部分で、オール・ラウンドに首を突っ込んだところもありましたけど、やっぱりそれだけじゃないんです。もともとファッションや車の話をしているよりも、文化論や宗教の話をしているほうが好きなんです。そりゃ、「帝都物語」の荒俣宏さんみたいに、年間、1億円もの費用を文献にかける余裕はないけれど、例えば中沢新一さんと宗教論ができるくらい、近藤等則さんと対等にニューヨークの話ができるくらいには本を読んでますよ。別に勉強という意識じゃなくて、ただ好きなだけなんですけどね」

スポーツ万能で、インテリ。育ったところは東京の目黒とくれば、誰でも彼を〝お坊ちゃま〟と思ってしまうのは当然のこと。ところが事実は、その正反対。この大どんでん返し!が、また、石田さんのおもしろいところだ。
「もう、親が絶望視するほどのワルだったんですよ。高校時代、目黒では裏の世界の有名人。補導はされまくるわ、国士舘の連中と、浜辺でビール瓶割ってケンカはするわで、ナイフで刺されることなんてしょっちゅうでしたよ。勉強もできなきゃいけない、ケンカも強くなきゃいけない、っていうんで、実力テストなんかやると、必ず学年で5番以内に入るんですけど、内申書がメチャクチャに悪い、先生達からは、最もタチの悪い知能犯って言われて、最悪の存在と見られてましたね」
生涯ワルの道を進むつもりは毛頭なかったが、戦いに勝つ、ということに関しては、とことんこだわる性分。この辺が単なる表面的なへらへらしたマルチ人間とは、大きく違うところ。
「いまでもギャンブルは大好きですね。それも、麻雀、バックギャモンといった、自分自身でゲームに参加するタイプのものが好きです。オーストラリアのカジノに行ったときは、バックギャモンで勝ちまくって、最後はその地方のチャンピオンとやったくらいなんです」
体育系も文化系も、硬派も軟派もなんでもこい!のいい男。撮影所の幕の内弁当をおいしそうに食べながら、ニコニコといろいろな話を聞かせてくれる石田純一さん。俳優としてだけはなく、人間としてもホントに魅力的な男性だ。