ジェイ・ジェイ雑誌1984年10月号
神田正輝のスポーツレッスン
《3学期》テニス
「ゴルフ、スキー、そしてテニス。何に対しても、日本人は形にとらわれすぎなんじゃないかな。もちろん基本は大切だけれど、もっと自由にスポーツを楽しむことを覚えてもいいころだと思うよ。テニスの場合も、要はボールを打ち返せばいいわけ。ガットであれ、フレームであれ、とにかく当たればいいんだよ。もしテニスがうまくなりたいと思うなら、場所、時間を問わず、誰か仲間を見つけて、ボレー・ボレーの練習をしたらいいと思う。機敏な動きにも慣れるしね。それから、女のコは基本的に両手打ちでかまわないんじゃないかな。きれいに足をクロスさせて打たなければならないけど、球の角度はつきやすい。そして、ボールに対して、前に出ながら打つというのが原則。こうしたほうがラク、というのがテニスのキャリア7年の、僕の実感かな。」
矢田「打つとき、どうしてもボールから目が離れちゃうんですが…。」
神田「離れてもいいんだよ。当たればね。それには、グリップからフェイスのスイートスポットまでの距離が、見えなくてもわかるようじゃないとね。スイートスポットというのは、ラケットの面を十字に切ったとき、真ん中よりやや下のいちばん抵抗の少ないところ。グリップを握った状態で、その場所がわかるんだったら、いちいちボールを見る必要もないだろうね。僕も本当のこと言っちゃえば、ボールを見ないほうがよく当たるもの(笑)」
遠藤「ウッドのラケットと、スチールのラケットでは、やっぱりスチールのほうがいいんですか?」
神田「スチールって最近少なくなってきたけど、ラケットの種類はグラスファイバー、カーボン、それに純然たるウッドね。選ぶときの目安は、グラスファイバーは軟らかいけれど、カーボンはちょっと硬いもいうこと。僕が使ってるのは、プロケネックスのボロンエースというカーボン系はのものなんだけれど、どっちが打ちやすいかというと、これ難しい質問でさ。例えば、フレーム自体がすごく硬い場合、ガットのテンションを高くするとボールは飛ばない。逆にガットをゆるく張るとボールは飛ぶといった具合。ラケット自体の硬い、軟らかいは、結局フィーリングの問題なんじゃないかな。あとはガットの張り具合を自分に合ったものにするということ。」
大野「ということは、私のように力に自信がない場合は、ガットをゆるめに張ったほうがいいんですか?」
神田「力はなくはないよ(笑)。それが、そうばかりも言えなくて、マッケンローなんてすごく軟らかいんだって。40ポンド台で張るというし、コナーズだと62ポンドくらい。どっちがいいかは、自分と同じラケットを使ってる人がいたら聞いてみて、その資料を比較検討してみることだろうね。軟らかいほうがいいと言ったって、ドライブかける打ち方ならいいけれど、フラットに打つとボールがオーバーしやすくなるし、その人の打ち方、フレームの硬さも関係してくるわけだから。ただ、ドライブをかける人なら軟らかい張り方でいいと思うよ、僕は。」
神「技術の話じゃないんですが、今年はトーナメントに出ないんですか?」
神田「苗場にはもう出ません。軽井沢は行くかもしれないけれど、ふだんテニスをする時間がないから、あまりお上手じゃないんだよね(笑)」
全員「え~っ(はやしたてる)」
神田(むきになって)「昔はうまかったんだから。苗場の試合へ行って、シングルスで優勝したり、ダブルスで優勝したりしたんだからね。」
池島「私、中学のとき軟式をやってたせいか、そのクセがついててバックでもすぐ手首を返しちゃうし、フォアでも力みすぎちゃうんですよね。なんとかそのクセを直したいんですが…」
神田「軟式のボールはすごくコンプレッションが軟らかいから、思い切り打ってもさほど飛ばないんだよね。それで、軟式から硬式に転向していちばん怖いのは、肘をこわしやすいこと。硬式ボールはドライブがかかるとすごく重いし、うまい人とやるとボールが当たってからガットの上をはうんだよ。ガガガと。それに、硬式では自分に合ったガットのテンションがわかれば、それほど振り回す必要ないの。ボレーなんて、ガットの壁をつくるつもりでフッと力を抜けばいいしね。だけど女のコがドロップボレーなんかやると嫌われるぜ。」
全員「どうもありがとうございました。」