映画『そして父になる』を観た。
血のつながり、親であること、取り違え。
静かな映画なのに、心の奥を強く揺さぶられた。
それで、ずっと奥にしまっていた記憶を思い出した。
次女を出産したときのこと。
もう20年以上まえのはなし。
当時は母子同室ではなく、授乳の時間になると何人かのママが一緒に授乳室へ集められた。
看護師さんが赤ちゃんを一人ずつ、ママのところへ手渡していく。
そのとき、私へ渡されそうになる赤ちゃんを見て、私は瞬時に言った。
「……違いますよ」ほんの一瞬だったけれどはっきりと“違う”とわかった。
ところが、私の娘(赤ちゃん)はというと、すでに別のママが、何の疑いもなく普通に抱っこしていた。
その光景を見た瞬間、びっくりしたのと同時に、ゾッとした。
赤ちゃんの足首には、ちゃんと母親の名前が書かれたリングが付いていた。
それでも、間違いは起きた。
もし、あのとき私が気づかなかったら。もし、声に出さなかったら。
そう思うと、今でも背中が冷たくなる。
産後で、みんな必死で、余裕なんてなかった。
誰かを責めたいわけじゃない。
ただ、あの一瞬が現実に起きたという事実が、今になっても胸に残っている。
映画を観て、「血がつながっているかどうか」「親であるって何だろう」そんな問いと一緒に、あの日の授乳室の空気が、突然よみがえった。
忘れたつもりでいたけれど、忘れていなかったんだと思う。