<side 静>

 

日曜日、僕は秀斗のお見合いに同席できるはずもなく

彰良さんに連れられて屋敷を出た。

 

(大丈夫。僕たち愛し合っていますから)

 

本当は大丈夫なんかじゃない。

 

秀斗が女性を選ぶのは、ごく自然のことだし

いつか秀斗が子供を欲しがっても僕には叶えてあげられない。

 

綺麗な女の人だって言ってた・・・ 

 

僕はやはり 不安だった。

 

「昼過ぎには戻るから」

 

「兄さん 静を宜しく」

 

「分かってる。楽しくドライブと行きますか」

 

そうやって彰良さんのアルファロメオで出かけることにした。

 

 

「静さん」

 

「はい」

 

「ご実家に・・・向かおうか?」

 

僕は少し考えて答えた。

 

「・・・・いいえ。あの彰良さん、祠堂高校まで行ってもらってもいいですか?」

 

「え、ああ いいけど・・・お母さんに会わなくていいの?」

 

 

僕は少しだけ微笑んだ。

 

僕が高校教師になると報告したとき

母さんはとても喜んでくれた。

 

「パパに自慢できるわ。私の息子は先生になるのよって。うふふ」

 

パパとは 継父の事だ。

 

喜んだのは母だけではない。

 

一之瀬の継父には兄弟もなく

実子は萌美だけで、

幾つもある会社経営は遠戚に今のところ任せている。

 

僕は形上 一之瀬の長男だから

遠戚の、僕ら母子を良く思っていない人間からしたら

僕が会社を受け継ぎ、相続するのではないかと不安に思って当然だ。

 

それはいつか萌美が婿養子をもらってからの話になるだろう。

 

萌美が一之瀬家の跡取りになることは 皆納得している。

 

秀斗のお見合い相手のように、家を守るために。

 

 

 

人里離れた祠堂高校。

 

森田先生に会いたい。

 

インターフォンで、祠堂の東京分校の教師になる一之瀬ですと言うと

中へ入ることを許された。

 

僕らは事務局へと向かった。

 

「あの・・・化学の森田先生はいらっしゃいますか?」

 

事務局長は 僕らの高校の頃とは人が代わっていた。

 

「今日は日曜で あいにく森田先生はいらっしゃいませんよ」

 

予想していたことだが・・・残念だ。

 

「では宜しくお伝え願いできますか? 一之瀬静と申します」

 

「一之瀬先生は英語の先生ですか?」

 

 

「え、いえ・・・国語が専門です」

 

「ああ、これは失礼。外国人のようなので てっきり英語の先生かと」

 

「は・・・はぁ」

 

「その左目は、今流行りのカラーコンタクトですか。

教鞭に立つ時は外して下さらないと困りますな」

 

 

「いえ・・・この目は生まれつきです」

 

「生まれつき?」

 

 

眉をしかめ怪訝な表情をされた。

 

すると彰良さんが割って入ってきた。

 

「あなたさっきから失礼じゃないですか。見た目で判断するなんて」

 

「は? おたくは どなたですかな?」

 

「彰良さんっ」

 

「弟の矢沢秀斗が こちらの卒業生なんです」

 

 

「矢沢・・・財閥の あなたはご長男ですか?!」

 

「そうですが それが何か」

 

今度は僕に顔を向けて訊いてきた。

 

「一之瀬・・・先生はもしや 一之瀬会長さんのご子息ですか!

早く仰ってくださいよ、今お茶をお出しします」

 

「あんたねっ」

 

「あのっ 結構です」

 

怒りを孕んだ口調の彰良さんを僕は無理に制止した。

 

 

「教師になると いずれこちらにもお世話になると思います。

どうぞ宜しくお願い致します」

 

「こちらこそ、失礼なことばかり言ってすみませんでした」

 

事務局長に頭を下げて 僕らは高校を後にした。

 

 

 

校舎や敷地の緑を 二人でゆっくり回りたかったが

彰良さんはスタスタ 車へ向かったのだ。

 

その姿を見て 秀斗と似ているなぁと思って ちょっと笑ってしまった。

 

あの犀利(さいり)な彰良さんが熱くなるなんて。

 

「ん? 何か可笑しい?」

 

「いいえ 彰良さんも秀斗も、結構血の気が多いんですね。意外♪」

 

「静さん・・・はは(^_^;) そうかなぁ、

 秀斗ほど やんちゃじゃないと思うけどなぁ」

 

「んふふ♪ 兄弟って良いですね」

 

「静さん、俺は静さんの兄になるんだ」

 

「え」

 

「だから辛い事や悩み事があったら まず秀斗に話して、

それでも解決の糸口が見つからなかったら俺を頼ってほしい」

 

「彰良さん・・・」

 

「本当は お母さんや妹さんに会いたいのを我慢してるんだろう?」

 

僕は黙ってしまった。

 

図星だ。

 

母さんに 秀斗との事、お礼を言いたかった。

 

萌美も大きくなっただろうな・・・小学4年生だもんな・・・

 

 

「外で会えばいいんじゃないか?」

 

「母も同じ事を言ったんです」

 

「え?」

 

「僕が高校教師になるって報告したとき

英語の先生になるんでしょうって」

 

「・・・・・・」

 

「僕が純粋な日本人なら、目がこんなんじゃなかったら・・・・

でも僕は半分外人で 虹彩異色症で・・・やっぱり部外者なんです」

 

「諦めるのに慣れるって寂しいな」

 

「すみません。暗い話をして」

 

すると頭をポンポンと触られ 

とても優しい穏やかな表情で見つめられた。

 

「静さん 言ったろう? これからは俺も味方だからな」

 

「彰良さん・・・」

 

「じゃあどこへ行こうか。そうだ、遊園地に行こう」

 

「ええ?」

 

「絶叫マシンに乗るのだ。これは兄からの命令だ~~~~(`∀´)」

 

「いやだ~~~(≧▽≦)」

 

 

「本当は嫌だったんだろ? 秀斗のお見合い」

 

なにもかも お見通し。

 

 

「はい・・・でも」

「ん?」

 

「僕たち結婚指輪を買ったんです」

 

「ほ~う 秀斗もやるなぁ(・∀・)」

 

 

「高校の頃、秀斗に言われたんです。 “静は俺の所有物だ”って」

 

「フンっ( ̄∩ ̄#  無茶苦茶だな」

 

彰良さんが呆れる。

 

 

「僕は・・・その言葉が嫌だった。

その頃僕は 母と今よりも冷めた関係で・・・

母にも秀斗にも モノ扱いされているようで・・・」

 

「うん・・・」

 

「でもね、今は違うんです。

結婚指輪ね、フランス語で

所有するっていう意味のポセションなんです(*^.^*)」

 

「所有する・・・」

 

「僕、誰にも必要とされていないと思っていたけど

秀斗は僕を必要としてくれた。

それが嬉しいんです。僕ら互いに求め合っているんです」

 

「そうか・・・うん。 そうかそうか (*⌒∇⌒*)」

 

お見合いをしているであろう秀斗を信じるように、

そして自分に言い聞かせるように彰良さんに話した。

 

彰良さんは 優しく受け止めてくれた。

 

 

寒いからだろうか、遊園地は空いていた。

 

ジェットコースターに乗りながら彰良さんが絶叫する。

 

「秀斗はねー!小学校1年生まで おねしょしてたんだーーー!!(`∀´)」

 

「きゃはははは!!(≧▽≦)」

 

 

そうやって僕と彰良さんは 遊園地で思い切り笑って

秀斗が待つ家へと帰ったのだった。

 

 

  ~つづく~

 


우효 (Oohyo) ウヒョ