両親に静を紹介するため
俺と静は週末に静岡に帰ることになった。
「もしもし お父さん、秀斗です」
「どうだ、元気でやっているかい?」
「はい・・・・あの・・・実はお父さんとお母さんに会わせたい人がいまして」
「それは 一之瀬静さんか?」
「えっ!? ええ・・・そうです。でもどうして?」
「彰良から それとなくな。 お前が高校の頃の・・・あの子なんだろう?」
「はい」
「秀斗、とりあえず一度連れてきなさい静さんを。話はそれからだ」
「あの・・・お母さんは」
「知っているよ。まぁ動揺しなかったといったら嘘になるがね」
「そうですか・・・・」
「お前ももう大人だから 誰を選ぶかはお前次第だが・・・」
「・・・・・・・・」
「とにかく、週末にでもこちらへ来なさい。静さんに会わないと何とも言えんよ」
「はい わかりました。 あの・・・・お父さん」
「ん? なんだ」
「こんな事を言うのは本意ではありませんが
ご期待に応えられなくてすみません」
「ふ。何を言うかと思ったら。気をつけて帰ってこいよ」
◇
そうして俺たちは二人で 俺の実家に向かうことになった。
「お母さん・・・ショックだろうね」
「どうして」
「だって・・・・」
「静、自分を否定するのはやめろ。
静は俺と生きるんだ。俺のおふくろと生きるわけじゃない」
「なにそれ」
「至極もっともなことだろう?」
「うん・・・・」
「兄貴に感謝しないとな」
「そうだね」
「いきなり告白したら おふくろは倒れてたかもしれないからな ハハ」
「笑い事じゃないよ。僕ら許してもらってるわけじゃないんだからね」
「許すも許さないも 婚姻は当人同士の問題なんだ。
憲法24条で定められている」
「僕ら 同性なんですけど」
「遅れてるよなぁ この国は」
そう言うと やっと静が笑顔になった。
静が抱えている不安は 俺の想像より遥かに大きいはずだ。
高速に乗ると実家まで そう時間は掛からなかった。
◇
「秀斗様、お帰りなさいませ」
父の執事の中川さんが門のところで待っていた。
「中川さん、ご無沙汰しています。父はもう帰っていますか?」
「はい。 皆様お待ちかねです」
静は俺より少し後ろを歩いて家へと向かった。
玄関には母が生けた花が飾られていた。
壁に掛かっている絵画、佐伯祐三は 父の大好きな画家だ。
静はエロール・ル・カインの絵が好きで 欲しがっている。
「秀斗、静さん よく来たね。さぁ座って」
兄が微笑んで迎えてくれて俺も静も少し安心した。
父はいつもの席に座っている。
入口から真正面の席だ。
「元気だった?秀斗さん」
「はい。お父さんもお母さんもお元気そうでなによりです」
「まぁ堅苦しい挨拶はいいから掛けなさい」
「はぁ・・・・」
ソファーに腰掛ける前に 静が頭を下げた。
「一之瀬静と申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「お久しぶりね静さん」
「・・・はい。 ご無沙汰しています」
「疲れたでしょう」
「いえ」
「二人とも 腹が減っているだろう。すぐに夕食だから それまで・・・
ああ、すまないが珈琲を」
父が母に珈琲を煎れるよう言った。
温かい飲み物はほっとする。
「静さんは高校の先生になるそうだね」
「あ、はい。祠堂の分校に。東京にありまして」
「立派な先生になるよう励んで下さいね。応援しています」
母も笑顔で接してくれる。
それが嬉しかった。
「実は昨日、静さんのお母さんがいらしたんだよ」
「ええっ? 母が・・・ですか?」
「二人の事を許してやってほしいと頭を下げられた」
「母さんが・・・・」
静を見ると 目を潤ませていた。
ハンカチを手渡すと「ありがとう」と目頭を押さえた。
「まぁアレだ、男女でも一緒になるって騒いで結婚してもすぐに離婚するカップルもいることだし。 ね、お父さん」
兄が中に入ってくれる。
「まぁな」
「秀斗さん・・・実はね」
「はい?」
母が何か言いたそうにしているところへ 中川さんがやってきた。
「静さん、もしよかったら庭を案内しますよ」
「え・・・・はい」
「何言ってるんだ、もう夕食だろ?」
「秀斗さん お話があるのよ」
「静がいちゃダメなのか」
俺が訊ねると 静が俺の腕を持って制止した。
「お庭を案内してもらうよ。中川さん、お願いします」
変だと思った。
何なんだ一体。
静が外へ出たのを確認して兄が切り出した。
「秀斗、まず謝らせてくれ」
「何を?」
「お前と静さんの事を 秀斗より先に俺がお父さんたちに話したこと」
「ああ。そんな、兄さん。感謝してるよ」
「理由があったんだ」
「理由?」
「秀斗さん・・・実はね、縁談のお話があったのよ」
「誰に」
「あなたに」
「は?」
「母さんの遠戚のお嬢さんでな。旧家の一人娘だ。
お前も知っている娘さんだよ」
事態が飲み込めず 父に確かめる。
「縁談ってどういう事ですか。 順番から言うと兄さんの方が先でしょう」
「秀斗、俺は長男だから婿養子にいけないんだよ」
「・・・婿養子? 何言ってるんだ一体」
「いや、急に話を持ってこられて困っていたんだ。
そうしたら彰良から静さんの事を聞いて 縁談の話は断ったんだ」
「当然です!俺は静と生きてゆくんだ」
「秀斗さん 落ち着いて。それがね、会うだけでいいからって引かないのよ」
「引かないってどういう意味ですか」
俺はだんだん腹が立ってきた。
「明日 来られるのよ。そのお嬢さん」
「はい?
」
「それでね、会うだけ会ってほしいの。勿論お断りしていいのよ」
「だったら初めから会う必要なんてありませんよ。 僕は婿養子になんて行きませんから」
「秀斗。母さんの顔も立ててやりなさい。静さんとの事を反対しているわけじゃない」
「会って断ればいいんですか。ばかばかしい」
「秀斗っ」
「静がどんな思いでこの家に来たか解りますか?
俺たちがどんな覚悟で帰ってきたか」
両親の気持ちは痛いほど解る。
息子には 普通に女性と結婚して家庭を持ってもらいたい願うのは当たり前だ。
でも俺は 静しかいらないんだ。
「秀斗」
ギクッとした。
「静・・・いつの間に」
「お庭拝見しました。綺麗に手入れされていて
夕暮れでも美しいのがよく分かりました。春が待ち遠しいですね」
「静さん・・・」
「秀斗、 ご両親の仰ることを聞いて。
お見合いしても僕は大丈夫だよ」
「あの・・・静さん」
兄も困惑している。
「大丈夫です。 僕たち愛し合っていますから」
静の凛とした姿に その場にいた誰もが息を呑んだ。
「ね。 秀斗」
「ああ」
俺の胸は熱くなるばかりで
その言葉を皆の前で宣言すべきだったのは自分なのにと
静に申し訳なく思った。
◇
その晩、 静もうちに泊まる事にした。
一之瀬の家に帰らせても良かったのだが・・・・
「秀斗の部屋に泊まっていいの?」
上目遣いで訊かれて その可愛さに困った。
我慢できそうもない。
「あの・・・静」
「ん?」
「風呂上がりには これを着てくれ」
と、俺は静に 浴衣を渡した。
「パジャマのストックが無いんだ」
「んふふ♪ ストックだって^^」
静め。 分かってないな。 よしよし。
俺は静が風呂から上がるのをウキウキして待っていた。
(僕たち愛し合っていますから)
「うぉーーー静~~~~愛してるぞーーー」
ひとりベッドでゴロンゴロン転がる。
「秀斗」
はっ!Σ(゚д゚lll) 兄貴!!
「お前・・・相当惚れまくってるな」
「悪いか!」
兄がニヤニヤして近づいてくる。
そしてベッドに腰掛け やんわり語りだした。
「母さん達のこと 許してやってくれ。
本心はお前に女性と結婚してほしいんだ」
「うん・・・解ってる」
「でもあれだな、さっきの静さんの一言は効いたな。芯の強さを感じたよ」
俺は起き上がって頷いた。
「ああ・・・おれも驚いた。 静があんな風に言うなんて」
「明日は静さんを借りるぞ」
「何で
」
「ば~か。お前、お見合いするんだぞ。静さんに見せたいのか?」
「兄さん・・・ありがとう」
「相手は気に入るだろうなぁお前を。
っていうか もうすでに気に入ってるんだ」
「なんでそんな事がわかるんだ」
「その旧家のお嬢さんがどうしてもって」
「え、本人がか?」
「そうなんだよ。お前、覚えてないか? 藤田学子(さとこ)さん」
「まさか・・・ガッコか!」
幼馴染みだ・・・木登りをして降りられなくなって泣いているのを助けたことがある。
確か大学も同じだったような・・・
「綺麗な娘さんだよ。跡継ぎの婿養子は 是非秀斗さんでってご指名があったそうだ」
「断るけどな」
「まぁ 静さんの事は心配するな。
静さんの気が向いたら 俺が一之瀬家までドライブに連れて行ってやる」
「頼みます」
「はい^^ 頼まれました」
二人で笑っていると、静が風呂から帰ってきた。
「じゃあ二人とも おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
浴衣姿の静が頭を下げる。
「兄弟っていいね」
「静にとっても兄貴になるんだ」
「あ、そうか。そうだね」
「なぁ静、 ゆっくり浸かったか?」
「うん♪」
フフン。 いい香り。
「一回やらせて」
「・・・え、何を?」
静が警戒して怪訝な目をする。
帯紐の結び目をほどこうとしたら静が抵抗して笑い出した。
「秀斗、だめだよ」
「違うって。 帯をさ、くるくる~ってほどくのやってみたいんだよ」
「いやだ」
「いいじゃん、やらせろ」
「いや、秀斗」
細い静には長い帯紐が何重にも巻きついていて
静はくるくる回った。
「くるくるくる~♪^^」
「もうっ (/。\) 秀斗の変態!」
「バカだなぁ、これは男の夢じゃないか」
「これ以上は無しね」
「そんな要望は却下だな」
そうして後ろから首筋に吸い付いた。
「ん・・・だめ・・・秀斗、声が」
「声が出そうになったら 俺がキスで塞いでやるから大丈夫」
そうやってベッドでじゃれ合っていると・・・・
「秀斗・・・」
「うん?」
「・・・・ひでと・・・」
「うん・・・・静」
「zzzzzz・・・・・」
「静?」
静は時々こうやって 俺の名前を呼びながら眠りに落ちてしまう。
まるで俺がそばにいるのを確認するように。
あ~あ。こんな赤ん坊みたいな顔で寝られたら襲えないじゃないか。
俺は そうっと抱きしめて
満たされた温もりを感じながら 静と眠った。
=つづく=

