(秀斗・・・ 

首を絞めて・・・

僕を殺して)

 

(静・・・だめだ・・・)

 

(お願いだから  

この体  もう終わりにして・・・)

 

鳥が・・・

温室にぶつかる・・・

 


「うわっ!」

 

夢・・・

夢か・・・

 

「秀斗? どうしたの、

大丈夫? 汗びっしょりだよ」

「しず・・・」
 

隣に静がいることが嬉しくて

あの頃の静が切なくて
俺はとめどなく涙が溢れた。
 

「静・・・」

 

抱きしめるその体温に安堵する。

 

「秀斗・・・怖い夢 

見てたの?」

 

「・・・ああ・・・

怖い夢だよ。 

俺が静の首を絞めて

殺してしまう夢だ」

 

「秀斗・・・」

 

静は俺の目から溢れ出す涙を舐めて 

包むように俺を抱きしめた。
 

「ごめんね秀斗・・・

 僕 自分だけが傷ついてると思っていたんだ。
秀斗をこんなに苦しめていたなんて・・・
ごめんね   ごめんね」
 

「・・・鳥を思い出す」

「鳥?」

「青い鳥は空に紛れて
見えなくなるんだ」


「秀斗・・・」

 

「お前が おふくろさんに蹴られた時を思い出す」
 

「・・・」

 

「温室にぶつかって死んだのは・・・静なのか?」

 


静は泣き腫らした俺の瞼にキスをして答えた。


「僕は生きてる。 
秀斗と一緒に
ずっと二人で生きてゆくんだ」
 

「本当に?」

 

「うん・・・うん。

秀斗・・・」

 

静が  はらはらと

涙を零す。

ごめんね  を 
何度も繰り返しながら。
 

「静・・・俺はもう

我慢できない、

黙っていられない」

 

「え?」

 

「自分の両親に。 

静と生涯を共にすること」

 

「・・・」

 

「不安なんだ・・・

静が消えそうで・・・

怖いんだ。 

一緒に暮らそう 静」

 

静にもう一度ぎゅうっと抱きしめられた。

 

「僕も母さんに言う」

「え」
 

あのおふくろさんに?

 

(あんたの息子は 

男に脚を開いてるのかって笑われたのよ!)

 
(あんたなんか
産まなきゃよかった)
 

(もういっぺん言ってみろ! ぶっ殺すぞ!!)

 

「母さんに言う」

「俺が守る。 静、
俺が静を守るからな」
 

「秀斗・・・」

 

確かな温もりを感じて

俺たちは寄り添って 

もう一度 夜に落ちた。

 
 

 ◇

 

「僕から電話するよ」

 

そう言って静は

母親へ電話を掛けた。

 

「もしもし・・・

静です。ご無沙汰しています。 母はいますか」

 

高校の頃から

静の世話をしていた秘書の人が

電話を取り次いだらしい。

 

「あ・・・母さん。 

静です」

 

静はしばらく黙っていたが

意を決して口を開いた。
 

「大事な話があるんだ。

 矢沢秀斗さんって覚えてる? 
そう矢沢社長さんの息子さん。
僕、秀斗さんと暮らすことにした」
 

沈黙が伝わってくる。

静の肩を支える。
 

「・・・はい、 

今 隣にいます」

 

そうして受話器を渡してきた。

 

「ごめん秀斗、

母さんが話をしたいって」

 

不安げな静に 

俺はなるべく微笑んで

その頬に手を添えた。

 

すうっと深呼吸して電話に出る。

 

高校の時の

あの事件が

脳裏に浮かぶ。

 

「もしもし。

お電話で失礼します。

矢沢秀斗と申します」

 

「静の母です」

 

あの時の荒々しい怒号が

思い出せないほどの

穏やかな声だった。

 

「やっぱり・・・

貴方と静は

そういう関係だったのね」

 

「静さんは悪くありません」

 


「もう責めてはいないわ」

「え」
 

「わかっていたの。

貴方に会った時から。 

私は・・・母親失格よ」

 

「そんな・・・」

 

「いいえ。 静を孤独にしてしまった。

あの子は私を恨んでいるわ」

 

「そんなことありません。

静は・・・静さんはそんな人間じゃありません」
 

「貴方はまた 

あの子をかばうのね」

 

「・・・」

 

「あの時もそうだった。 貴方が盾になって私から静を守ったわ」

 

「・・・はい。 

これからも守ります。 

全力で」

 

「私のせいで・・・

あの子は愛される事に

慣れていないのよ」

 


「後悔しているんですか?」

 

「・・・それは言わないとだめかしら」

 

「・・・いいえ」

 

(静に謝ってほしい)

 

 

「あの子を・・・静を
宜しくお願いします」
 

「・・・はい。 

有難うございます」

 


俺は受話器を持ったまま静の肩を抱いた。

 
「静、お母さんが代わってって」
 

「もしもし 母さん?」

 

「静・・・萌美があなたに会いたがっているわ。困ったものね」

 

「・・・え?」

 

「それから・・・

矢沢さんと仲良くね。

 大変でしょうけれど、
苦労しても私は知りませんからね」
 

「・・・母さん・・・

母さん 僕ね、

フィンランドに旅行に行くんだ。

秀斗と一緒に」
 

「・・・そう」

 

「・・・」

「じゃあ ユハを頼って行けばいいわ。
あなたのお父さんの連絡先を教えるからメモしなさいね」
 

「・・・父さんの? 

ちょ、ちょっと待って。

うん・・・うん」

 

 

静は父親の住所と電話番号をメモに書き留めた。
 

 

「じゃあ忙しいから切るわよ。
 一之瀬の名に恥じないよう教職を頑張るのよ」
 

「はい・・・」

「体を大事にね」
 

「うん・・・うん。

ありがとう母さん」

 

電話を切って二人で寄り添って抱き合った。

 

静は泣くかと思ったが

涙は流さなかった。

 

黄昏に包まれるような 穏やかな顔をした静がいた。

 

もう何も恐れない。

俺の親にも全てを話す。
 

「一緒に暮らしてくれるよな? 静」

 

こくりと頷いて 

頭をもたげてくる。

 

その緩くカールした

柔らかな髪の毛の

一本一本まで

愛おしく感じた。

 


温室に飛び込んで

命尽きた鳥ではない。

 

静は 傷をゆっくり

癒してゆくだろう。

俺と一緒に。
 

それ以来、

俺は  あの夢を見なくなった。


ぐりこのSORA

 ◇

俺の実家へ二人で趣いたら