「秀斗、スーツが似合うね」

 

「はは・・・そうか?」

 

俺は 胸がくすぐられるように照れてしまった。 

 

近くにあったスタバのオープンテラスで珈琲を飲む。

 

静のビアンキがあるから 店内ではなく外で飲むことにした。

 

 

話したい事 ききたい事、

沢山あるはずなのに 

言葉が浮かばない。 

 


探そうと思えば、いつだって探せた。

でも 探さなかった。

 

どうしてだろう・・・と、今 本人を目の前にして思う。

 


東京に出てきて一年。

 

静はもう六年目か・・・

 


「仕事、頑張ってるんだ?」

 

「ん?ああ、まぁな」

 

「お父さんの会社?」

 

「ああ。でも一番下っ端。上に来たいなら自力で上がってこい だってさ。 

兄貴もそうだったんだ。 兄貴は静岡の本社にいるけどね」

 

「良いお父さんだね」

 


・・・・・

 

(あんたなんか産まなきゃよかった)

 

 

「・・・静」

「ん?」

「その・・・おふくろさんとは連絡取ってるのか?」


「・・・・んふ♪」

 

 

その笑い方、変わらない。

笑顔が見られて安心した。

 

この親子の、以前のような

緊張感は感じられない。

 


「ほとんど会ってないよ。でもね、時々 小包を送ってくるんだ」

「ええ? あの おふくろさんがか?」

 

真っ直ぐに見つめられて 少したじろいだ。

 

「あ・・・悪い」

 

静はフッと優しく微笑んで

珈琲カップを両手で包んだ。

 

「それがね、面白いんだ。

普通実家の親からの送り物って

なんていうのかな・・・・

救援物資的な感じだろ?」

 

「ああ・・・食べ物とか・・・服とか?」


「そう。でもね、うちの母さん 香水送ってくるんだよ」


「香水?」

 

「うん。クロエの それも女性用みたいで。 僕 女の子じゃないっつーの」

 

「ブッ。ブハハハ。あのおふくろさんらしいな」

 

「だろ? ずっとラブクロエばっかり送ってくるんだ」

 

「おふくろさんもクロエなのか?」

 

「ううん。 あのひとは ずっとランテルディだから」

 

 

あのひと・・・

 

静。割り切ることを覚えたのか。

 

大人になったなぁと思った。

 

多分、おふくろさんは 時々クロエを開けて

静を近くに感じてるんだよ。

 

「大学行ってるのか?」

「うん。大学院。まだ学生してるんだ」


「今 就職って大変だろ?」

「それがね、もう決まってるんだ」

 

「そうなのか?!」

「どこだと思う? 僕等の母校 祠堂学院高等学校」

 

「えっ?」

「都内に分校があるでしょ? そこの国語教師」

 

「え、なに お前 先生になるのか?って

静が国語?」


「そうだよ。 定年で退職される先生がいてね。

入れ替わりに僕を取ってくれるんだ。有難いよ。

僕 今ね、大学で

教授アシスタントのバイトしてるんだ」

 

「バイトって・・・そんな事しなくても やっていけるだろ」

 


静は母親と妹から離され強制的に一人暮らしをさせられている。 

 

手切れ金まがいに 

大会社の会長をやっている継父から 

かなりの金を貰ったはずだ。

 


「ダメだよ。生活費くらいは自分で何とかしないと。

時給っていうか コマ給っていうか 

結構良くて助かってるんだ。

教師になった時のいい練習にもなるしね。

勉強もできるし」

 



充実してるんだな、静。

 

ブランドのバッグや宝飾品を当然のように欲しがる女たちと

俺は・・・・

 


「じゃあ・・・もしかしてこのビアンキも?」

「そうだよ。やっと買えたんだ。^^ 高かった~」

 

 

こうやって二人で笑えるなんて。

 

「そうだ、静  スマホ。

連絡したいんだけど 

メアドいいかな?」


「あ、うん。 待って」

 

静は斜めがけのバッグから スマホを取り出した。

 

素直に嬉しかった。

静と繋がっていることが。

 



「秀斗!酷いじゃない!!」

 

!!

 

怒りに顔が紅潮した恵里菜が

タクシーから降りるなり怒鳴ってきた。

 

静が 俺と恵里菜を 

どう思うのか気がかりで 静の目を見つめてしまった。

 

静は察したように 

言葉を出した。

 

「あの、じゃあ僕はこれで」

 

立ち上がる静の手を 

思わず掴んだ。

「・・・静」

 

俺はどんな顔をしていたんだろう。

 

「秀斗っ 聞いてるの? 置いていくなんて酷い!」

 


静はゆっくり俺の手に触れ 

自分から離した。

 


「連絡するから」

 

自分の気持ちばかり走らせて 

お前を傷つけてきた俺を

許してくれるのか?

 

天野朔夜とは 

どうなってるんだ。

言葉が逃げる。

 

「静」

「連絡するよ」

 

優しい声が 黄昏のように

冷めた心に沁みこんでゆく。

 

俺は静がいない事に 三日も もたなかった。

 

 ~つづく~