始業式の後、
僕たちは教室へと向かった。
3-A
席は 出席番号順に
座る事になっている。
朔夜と僕は、
天野 ・ 一之瀬 で
教室でも隣同士になった。
外が見える窓側の
左の席が朔夜。
右の席が僕。
担任の先生が入ってくると
朔夜はすぐに先生の元に向かった。
何を話しているんだろう・・・
ぺこっと頭を下げ、
席に戻ってきた。
「静、 席替わろう」
「え・・・? なんで?」
「いいから。
先生に許可貰ったから」
僕は言われるがまま
席を替わった。
ああ・・外の緑が綺麗だ。
「左利きだろ? しず」
「あ」
それで・・・
「知ってたんだ?
僕が左利きって」
「まぁな」
なんだか くすぐったい。
誰かに気を遣われることに
慣れていない。
どうしたらいいんだろう、
こういうとき。
「朔夜、ありがとう」
僕は小声で 礼を言った。
朔夜はニコッと 微笑んだ。
◇
ホームルームが終わり みんなそれぞれの
自分の部屋に戻る。
僕は廊下で 窓に寄りかかり
外をボーっと見ていた。
すると 中庭のほうから
やけに賑やかな声がしてきた。
「矢沢先輩!」
「矢沢先輩、これ教えてくれませんか?」
「矢沢先輩っ」
・・・ヒデト・・・
僕のすぐ後ろで
他の生徒達が噂する。
「秀斗、相変わらずモテるなー」
「矢沢を目当てで入ったちびさんたちも
いるみたいだぜ」
「成績優秀、
見た目も抜群、
御曹司とくれば
下級生達が
ほっとかないだろうな」
そうだ・・・
秀斗は多くの生徒から好意を寄せられている。
同級生からも。
僕なんかと
あんな事しなくても
相手ならいくらでも
いるだろうに・・・
◇
僕は朔夜と
なかなか上手く過ごせていた。
さりげなく
気を遣ってくれる朔夜。
食事の時も
「もっと食べろ。
静は少し痩せ過ぎだぞ」
と言って
自分の唐揚げをくれたりする。
勉強も分からないところは
スラスラ教えてくれる。
優しい言い方だから解り易い。
でも僕は やっぱり
時々ボーっとして
窓の外を見るのだった。
もうこれは趣味というか
癖みたいなものだ。
「しず」
「・・・・」
「静」
!
「あ、朔夜・・・」
びっくりした。
「部屋、戻んないのか?」
「あ、うん・・・ちょっと用があって・・・」
「そうか。 じゃあ俺は戻ってるから」
手を 少しあげて
朔夜は行ってしまった。
◇
「リンリン」
僕が手を叩いて呼ぶと リンリンは直ぐに出てくる。
僕はベンチに腰掛け、
リンリンを膝の上に乗せた。
撫でるとつやつやしてて あったかい。
猫のリンリンと
こうして時間を過ごすのが
僕は好きだった。
「リンリンといると
心が落ち着くんだ」
ニャー。
「可愛いね お前は」
手のひらで撫でたり
耳の後ろを掻いたりした。
「君は いつから
ここにいるんだい?」
リンリンは
ふぁ~っと 欠伸をして
今にも寝てしまいそうだ。
「僕はね・・・
捨てられたんだぁ。
ここに」
萌美は元気かなぁ・・・
ふと、一之瀬の
家族の事を思い出していた。
◇
僕を育ててくれた祖母が
亡くなるのと入れ替わるように
僕に 新しい父が出来た。
それが 一之瀬のジイサンだった。
母が こんなジイサンと
本当に結婚するのかと思うと
僕は少しゾッとした。
「子どもが出来たのよ。
シズ、あんたに
弟か妹が出来るわよ」
母は浮かれていた。
赤ちゃんを授かった。
それに加えて
相手は大きな会社の
会長さんだ。
しかし、一之瀬の親戚連中は
母が後妻に入る事を
直ぐには 承知しなかった。
「腹の子も、一之瀬の子かどうか分からない、DNA鑑定の結果次第だ」
母は激怒していたが、
結局その要求を飲んだ。
生まれたのは女の子だった。
僕が14歳のときだった。
可哀想に、
生まれて直ぐにDNA鑑定を受けさせられた。
結果、父親は一之瀬のジイサンだった。
ジイサンは大喜びして 母に「でかした!」を連発していた。
萌美と名づけられた妹は
僕には全く似ていなかった。
肌の色も、
髪の色も、
目の色も。
“ 部外者 ”
自分自身を
そう感じ始めた頃、
母から祠堂高校の話を
持ちかけられた。
「パパがね、ここは全寮制で
良いとこの子が多くて
しっかりした高校だって。
学費も何もかもパパが面倒見てくれるの。
大学は東京に行くといいわ。
ねぇ萌美~。
お兄ちゃん高校生になるのよ~。
バイバーイって」
母は
萌美の小さな手を持って
フリフリして
僕に 笑顔で
一之瀬の家から
出て行くよう 促した。
◇
「リンリン・・・君はどうしてここにいるの?」
不思議だな。
リンリンといると、
価値の無い自分は
もう死んだほうがいいっていう考えが
薄れてゆく。
「・・・さくや・・・・」
そうだ・・・
朔夜といる時も同じだ。
猫と同じなんて言ったら怒るかな・・・
そう思ったら なんだかほっこりして微笑んでしまう。
カチャ。
ん?
温室に誰か入ってきたのかな?
「シズ」
!!
あの夜以来、
二人きりで会う
秀斗だった。
~つづく~
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