チチチッ 

ピチュピチュ


鳥の啼き声がして 窓の外を見た。

 

今日は良い天気だな・・・

  

「静って 綺麗な名前だな」

 

「・・・・えっ」

 

びっくりした。

 

僕は すぐぼんやりしてしまうから 

急に声を掛けられると

戸惑ってしまう。 

  

「誰がつけたの?」

 

そんな事訊いてどうするんだよ・・・

 

「・・・母さんだよ」

「そっか。 綺麗な名前だ」


その言葉を受けて、

僕は自嘲気味に言った。

 

「犬の名前だよ」

「犬?」

  

僕はまた窓の外を見つめて 

小さい頃を思い出していた。

  

僕は母さんが

16歳の時に出来た子どもだ。

 

父親には会った記憶が無い。

フィンランド人って事だけは聞いている。

 

僕の肌が妙に白いのも この目の異常も

父親から譲り受けた物だ。

 

僕は実質、祖母に育てられた。

 

母とは滅多に会わなかった。


小学校に上がって 

名前の由来をきいてくるっていう宿題が出た。

 

その日、珍しく母が帰っていたから

僕は尋ねてみた。

 

「お母さん・・・」

「ママって言ってくれる?」

  

若くて綺麗で 

なんか いい匂いのする人だった。

  

「・・・ママ・・・あのね、 

僕  なんで静って名前なの?」

  

母の言葉を書き取ろうと、

国語のノートを抱きしめていた。


「ママね・・・ずーっと犬を飼うのが夢だったの」

 

「うん」

「でもほら、ここ団地でしょ?飼えないじゃん」


「うん」

「飼いたいなーってずっと思ってたら 

先に あんたができちゃったのよ」

 

「へえ・・・」

   

僕はそのまま 

ノートに書いてゆく。

  

「シーズー犬が欲しかったの。 だからシズ。 

漢字は  おばあちゃんが付けたんだよ」

 

「そっか。 分かった。 シーズー犬、だね?」

  

馬鹿な僕は 

そのまま学校で発表した。

 

それから  いじめが始まった。

  

「女みてぇな顔!」 

「外人!」 

「目が気色悪りぃ」 

「犬っていうか猫みたいじゃね?」

  

その頃 僕は

一之瀬静ではなく、 

佐藤静だった。

 

  

「しずって呼んでいい?」


「・・・・えっ。 

あ、 ああ・・・うん」

  

「じゃあ俺は 朔夜でいいから」


「・・・さくや・・・」

  

朔夜は椅子から立ち上がって 

僕の隣に立って 

窓の外を見つめた。

 

整った顔立ちだな。 

僕よりずっと背が高い。

 

185cmくらいあるんじゃないか?

  

「俺もさ、痛い名前なんだよ」

「え?」


「おふくろが若い頃

ロックバンドの追っかけやっててさ、 

そのギタリストの名前が朔夜」

 

「へぇ・・・そうなんだ」

「まったく  笑っちゃうよな」

朔夜はケラケラっと笑った。

  

「でもさ、今は結構気に入ってるんだ」


「ふーん・・・」

  

「しずも綺麗だよ」

・・・・

  

朔夜は僕の顔を

真っ直ぐ見つめて言った。

  

「綺麗な名前だ」

 

 

なんだろう・・・これ。

  

秀斗や母さんの「シズ」は

カタカナで聞こえるのに・・・

 

朔夜に呼ばれた「静」は

ひらがなで  優しく 

「しず」って呼ばれた気がした。

  

そして何故か、 

小さい頃好きだった 

飴玉の味を思い出した。

   

~つづく~



  今日の  お届け曲

レイニさん 【 少年時代 】


 https://www.instagram.com/reel/DMC0h5ZyXoF/?igsh=MThrN3NpNTFmaDYzOQ==


男の子は、歳を重ねると

パパ上に  ソックリなってゆくのですね。

彼の苗字は、徳永さんです。

(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)