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刺繍針を刺している時の静けさが好きだ。
外国人である私が
この地方伝統の刺繍を習いたいと 教室に通うようになって
もう何年も経つ。
ブルターニュの小さな村の祭りで見た黒の民族衣装と
そこにあしらわれた 金の刺繍の美しさにひと目惚れした。
いつか娘に 自分で刺繍した衣装をプレゼントしよう。
モチーフをデザインするのも楽しい。
祭りでは教会へ向かう。
最初は ただついて行くだけだったが、それでも背筋が伸びる。
厳かな光と影が 空気に溶け込む。
「 悔い改めよ 」
瞳を閉じていると自分自身もまるで この空気に溶け込んでいるようで
瞼の裏が青く感じられた。
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柔らかく流れる時間の中で 小鳥のさえずりが聞こえた。
唄っているのかなと 針を止め見上げた。
姿は見えなかったが きっと可愛らしい鳥だろう。
花に身を寄せ唄う鳥を想像しながら
ふと私は 七瀬との出会いを思い出した。