私の家の近くには
祭儀場があります。
そうです、
お葬式やお通夜を行う
貸しホールですね。
駅に行くには、その前を通らなければなりません。
もちろん、夜遅くなった帰り道も。
お通夜などがあった時は、まだいいのです。
それなりに、ひとけがありますからね。
問題は、夜遅くの使われてない祭儀場の前を通る時なのです。
…。
それは、引っ越ししてまもない、冬の寒い夜でした。
会社の残業で遅くなってしまった私は、スーパーで適当にお惣菜を買いこみ、家路を急ぎました。
そして、ひとけの無い、あの祭儀場の前を通りかかった時のことです…
「いらっしゃいませ!」
突然、女性に声を掛けられました。
心臓が口から飛び出る、と言う表現をこの時使わないで、何時つかいましょう?
…、
いや、実際、飛び出たら、大変だけど。
死ぬし。
口から心臓を飛ばして死んでるなんて、
そっちのほうがホラーだし。
怪奇だし。
第一発見者の方に申し訳ないし。
せっかく発見してくれたのに、疑われるだろうし。
死体は司法解剖に回され、なかなか帰って来ないだろうし。
いつまでたっても、葬式できない家族にも迷惑だろうし…。
って、話、それた…。
とにかく、
「いらっしゃいませ」
と声を掛けられ、死ぬ程びっくりした訳なんです!
続いて、また、どこからともなく、声が…
「温かいお飲み物は、いかがですか?」
は?
私は、恐怖と驚きで、開ききった瞳孔であたりを見回しました。
そして、気づいたのです。
「このぉ~!貴様かぁ~!」
私を怯えさせたモノの正体を!
「ダ○ドードリンコの自販機めぇ~!」
私が「平和島静雄」くらいの怪力の持ち主だったら、間違いなく、その自販機を300メートル先まで放り投げていた事でしょう。
しゃべるな、自販機!
いや、せめて、
居る場所を選べ!
以来、もう、自販機の声に怯える事はなくなった私ですが…。
昨日の朝の事。
近くで何かの工事をしてる現場に出勤してきた、ニッカポッカ姿のお兄さん2人が、その自販機で飲み物を買ってました。
「おはようございます。お買上ありがとうございます。お釣りのお取り忘れにご注意下さい。」
と、話しかける自販機に、お兄さん2人は
「うぜーぇ」
とつぶやいおりました。
夜はお気をつけなさい。
口から心臓が飛び出るかもしれませんよ…。
うふふ…