タクシーの中で







タクシーの運転手さんに


行先を聞かれる。





「どちらまでいかれますか?」












「○○葬儀場までお願いします」


と答える。













すると運転手さんは、何の悪気もなく


「どちらさんが

亡くなられたんです?」


と訪ねられる。







「兄が⋯亡くなりまして⋯」






「えっ?お兄さんがですか⋯







「そうなんです。

双子だったんです⋯」


と。言うと、








「まだ若かったでしょうに。

可哀想に⋯」と言われた。











正直、大阪は″そういう土地柄″

なんだと思った。











そんな経緯を経て、


無事、葬儀場の近くに到着した。














クローバー







タクシーだったからか


思ったより早く到着してしまった。










母と二人。予想以上に早く着いてしまった為


近くの公園で過ごす。


あと30分以上は時間が余りそうだ⋯











ふと、足元を見ると


クローバーが咲いていた。









母に「四葉のクローバーでも

見つけようよー!」


と、ふざけて言ってみたが










「見つかるわけなかろー。」


と言われ却下された。








「見とってよ〜!

絶対見つけちゃるけん!」


と笑いながら探していた私。










大口を叩いた割に見つからず









母も

「ほら、なかなか見つかる

もんじゃなかばい!」


と呆れて見ていた。









当たりを見渡せど小規模にしか咲いていない


クローバー。


足元のエリアに絞るしか時間的になかった。








「やっぱりそんな奇跡

起きるわけないかぁ⋯」



と思い半ば諦め気味に探していた私だが
















まさかの見つかったのだ!
















「ウッソ〜あんた本当に

見つけとるやん」

と、母。






「お母さんも見つけようかな」




と言い出し、謎の


クローバー探し大会が急遽開催された。











四葉を探すにつれある事

気になった私はその場で調べ物をした。











そもそもよく子供の頃に探していた


クローバーだが、




どのくらいの確率で

四葉のクローバーは

見つかるのか。





地味に気になってはいたが

調べたことがなかった。











そして次に気になったのが


何故四葉のクローバーは

出来るのかだった。







みなさんもふと、気になった事は


なかっただろうか?






そもそも私も四葉のクローバーを


見つけなければ一生調べることは


なかっただろう。











→四葉のクローバーが見つかる確率


1/10,000本


ある研究によると


1/5,000だそうだ。







私が見ていた足元に咲いていたのは


恐らく多く見積もって300本程。


ならば確率はどうなっただろうか。










次にどうやって

四葉のクローバーが出来るのかだ。







元は、三葉で生まれ育つのだが



人や動物に


踏まれたり、傷つけられる事で

稀に四葉が誕生する事がある


との事で衝撃を受けた。

















と、母にうんちくを垂れていると


俄然やる気を出し始め、気づけば


地面に釘付けになっていた。











探せども、探せども、2人とも


2個目が見つからない。


私はこう思ってずっと探していた。








″兄にプレゼントしたい″
















探せども、探せども見つからず


とうとう母は諦めてしまった。








「1個あっただけでも凄いとに

見つかるわけなかろー」

と言う母。









が、私は

絶対に見つけられる気がしていた。





なんとなく

見つかる気がして

諦めきれなかった。











そんなこんなしていると公園に


鳩をゾロゾロと引き連れた


お婆さんがやってきた。


この地域ではきっと有名人だろうか。












お婆さんがキャリーケースを持った


私たちに興味本位で話かけてくる。









「何してますのん?」


「どこから来られましたのん?」







″あぁまた来たよ″と思いながら


私は四葉のクローバーを必死に


探している為返事はせず、母に返答を任せた。









「この子は関東で」

「私は九州から来ました」


と、まぁよせばいいのにバカ真面目に答える。








もうすぐ葬儀だっていうのに、


そんな事言ったら「どうして」


って話になるに決まってるんだから⋯


と思いながらも母を見守る。










案の定どうしてが始まり、


「あらそれは可哀想に」


という流れになった。











しかしこのお婆さんは

今までとは違った。








兄と私の年齢が同じだったからか、


私を兄のお嫁さんだと思い




「おねぇちゃん、

旦那さんが亡くなったの?」


やら、母に対して


「お兄さんが亡くなったの?」


と、何度も何度も尋ねて来るのだ。












そう、つまりは認知症なのだ。


いつもはグループホームで働かせてもらっている


私でも相当辛かった。








「私の息子が亡くなったんです」


と何度も何度も母に答えさせている


悪気のない善意に喉が詰まった。








そして私は


「兄が亡くなったんです」


と声を出せずに母に回答を任せ



ひたすら下を向き


クローバーを探すフリをし続けた。







涙を誰にも見せたく

なかったのだ。












ふと、我に返る。





認めたくない自分と


認めようとしている自分、


それを傍から見ている自分とで


ごちゃごちゃになっていた。








なんで私は

今ここでクローバーを

探しているの?








なんであいつは

こんな早くに死んだの?


色んな思いが込み上げて


心がぐちゃぐちゃになった。








お婆さんは


「何探してますのん?」


と言い、






母が


「この子が兄と私の分って

四葉のクローバー探してるんです」


と答えた。









「なかなか見つからんでしょう。

可哀想にね。奥さん」


とお婆さんが答える。











その瞬間、涙でボヤけた視界の中


1つの四葉のクローバーを見つけた。













母に「見つけたよ!」


と直ぐに伝えたかったが


涙を隠すのに必死な私は


そっと四葉を手のひらに乗せ握りしめた。





















1つは兄の棺に。


もう1つは私の手元に。







兄からの最初で

最後のプレゼントだと

思っている。