火葬日の前の夜








母とひとしきり話し、


明日に備えようと思っていた。


書類をかき集め、バックに詰める。











ふと、兄が持っていた書類が気になり


中を見てみることに⋯












前の家の契約書だろうか⋯


中を見てみるとそこには



中村千津子


という、見知らぬ人の名前があった。













その方の勤務先には、昔どこか聞いた事のある


店の名前⋯







スナックBaccarat???















思い出した!!






ちーさんがママをしているスナックの名前だ!


兄は恐らく前の家の契約書の


緊急連絡先にちーさんにお願いしていたのだ。











申し訳ないと思いながらも


お店に電話してみる事に。



















 お店に電話する











兄の携帯から電話してみる⋯


出てくれるだろうか。営業日だろうか⋯











すると、電話帳には入っていなかったのに


登録者名に:Baccaratと、入っていた。










恐らくシークレットか何かで入れていたのだろう。


「間違いない」という確信へ変わった。












プルル⋯プルルル















2回ほど掛けたが電話に出る事はなかった。


定休日だろうか。










よくよく、書類を見てみると


携帯電話の電話番号が書いてあり


そちらに私の携帯から電話してみた。















プルルルル‥プルルル‥















「もしもし?」






「突然の連絡で申し訳ありません。


⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎と申しますが…


覚えていらっしゃいますでしょうか?」










「あっ!はい覚えてますよ!

どうされました?」










「実は兄が亡くなりまして…」











「えっ?何でですか?!」









そんなくだりを話した。


元彼女さんはとても驚かれ、


声を震わせながら話をしてくれた。












それから


「兄が本当に好きだったのは

元彼女さんだった事」








「兄がきっと感謝している事」







「兄と一緒に過ごして

くださった感謝の気持ち

ホームレス状態の兄を

救ってくださった事の

感謝と謝罪を伝えた。









そしてここには書かないが


なぜ別れたのかと言う理由も私に話してくれた。


兄には恐らく伝えていなかったのだろう。











元彼女さんは私が想像するよりも


しっかりした受け答えの出来る方で


彼女と別れなければ、瀕死の状態でも


まだ生きていた様な気がした。


きっと兄は選択を間違ったのだろう。















それから元彼女さんは


「もう火葬は終わられたんですか?」と尋ねられた。








「いえ、実は明日が火葬の日で、

骨になる前に気持ちをお伝えしたく…」


と言うと、










「もしよろしければ

伺ってもよろしいでしょうか?」


と、おっしゃってくださった。











「えっ?お店は大丈夫なんですか?」



と言うと、なんと営業終了後に


そのまま向かうとの事だった。












「無理はなさらないでくださいね!」


と言ったものの、嬉しくて仕方なかった。









兄が本当に来て欲しかった人に

来てもらえるのだから。









本当の所は兄にしか分からないが


私はなんとなく間違っていないと思っている。











元彼女さんにも急な訃報だった為


軽装でも大丈夫、且つ、香典は受け取れない


旨をお伝えしで電話を切った。


















母は横で話を聞いていた。


電話を切って一言言った。











「良い人と付き合ってたんやね」

と。









母も私も、きっと心の中で


"この人と別れてなければ"


と思ったに違いない。











散々飲み、泣き腫らした私は明日の為に


早めに寝る事にした。