兄の家での朝






まだ寒い4月の初め。

カーテンすら付いていない兄の部屋は

暖房を付けたものの、意味を成さず

2度寝する事を諦めた。







酒が抜けきった体に

冷たいフローリングの痛みが突き刺さる。





なんとか、眠ろうとモゾモゾしていると

母が起きた。

母も対して眠れなかっただろう。








そして2日目の朝がはじまった。









 兄の家​2日目




明日にはこの家を出て、大家さんに

鍵を返さなければいけない。

隅から隅まで大掃除がはじまった。









書き忘れていたが、実は前の日

変わったことがあった。

トイレ掃除を終えた時のことだ。











外出しようと玄関から出た時、

玄関の前が水浸しになっていた。

原因は不明だ。

兄の家を基点として流れている様では

あったが、隣接する他の部屋の玄関先まで

水浸しになっていた。










「近くにいるので
何かあったら連絡下さい」

と、大家さんに言われていた為

大家さんに連絡をして来てもらった。




 



大家さんは先程まで濡れていなかった

玄関先が急に水浸しになった事に

驚いており、

その様な仕様にはなっていないハズで

何故こんな事が起きるのかわからない

との事だった。




恐らくユニットバスを掃除した兼ね合い

かとは思ったが、水と一緒に流れ出て来た

であろう髪の毛が何とも不気味に見えた。






「わかりました。

「しかしどうしたものか⋯」


と言い、また急ぐように帰っていった。

鍵はポストに入れておく様に言われ、

普通なら退去前に立ち合いする

のが一般的だろうが、立ち会いはなかった。












 買い出し





母と二人買い出しに出かける。

コインランドリーにも行った。

兄もどうやらこの場所を使っていた様だった。











ちょっと歩いた先には商店街。

たこ焼きやさんなんかもある。

さすが大阪だ。
















美味しそうなテイクアウト限定の

焼肉弁当なんかも頼んで持って帰ることに。













兄の棺に入れようと考え

数種類の酒とツマミも購入した。

兄が良く通っていたコンビニにハシゴして。











彼女さんとのLINEの1文にあった。

「飲みすぎって店長に怒られた」と。








飲みすぎの兄を心配して

この、コンビニの店長さんが

気にかけてくれていた様だった。

本当に感謝してもしきれない。










しかしまぁ⋯どこを見ても

ひけらかしに来ているような

桜が満開の時に死んでくれた。







「泣くなよ」

と、声が聞こえて来そうで、桜を見る度に

なんで満開なんだよって辛くて仕方なかった。













帰宅後速攻でたこ焼きを食べる。

あの食の細い母親がわざわざ

「たこ焼き食べん?」

と聞いてきたのだ。

つい先日食べたにも関わらず。








恐らく予想ではあるが

兄が食べたであろう たこ焼きを

食べたかったのでは無いかと感じた。










私は実は食べたかったが、

たこ焼きは食べたがらないと思い

声を掛けなかったが

まさかの問いかけだった。









「ごめん、私もう飲むけん!」

と言い、ひとしきり頑張った自分にご褒美。

母もノンアルのハイボールを飲んだ。









これがまぁ大当たり。


モッツァレラたこ焼きと、


ノーマルたこ焼きの2種類を購入したが



モッツァレラが美味すぎる!!












前回食べたたこ焼きよりも遥かに


美味しかった。。。


チーズがトロトロで、ふわふわ。


可能なら毎週末に食べたい味だ。









価格は忘れてしまったが


「どうやって切り盛りしてるんですか?」


と、問いかけたくなる程安かった記憶がある。








ノーマルたこ焼きはタコが風味程度にしか

入っていなかったが、

ソースが美味しかった。









しかしモッツァレラたこ焼きが

私の中では本当に忘れられない衝撃だった。








カリカリではないたこ焼きも

恐らくこの場所ならではなのだろう。
















そして結構なお値段のする焼肉弁当。








価格は1000円を優に超えていた。


ある程度値段も、待ち時間も取られた為


期待値が上がってしまっていた。









すぐに食べれば美味しかったのかもしれないが

見た目の通り⋯固くて美味しくなかった。

が、付け合せのキムチが本当に美味しかった。







机なんかない兄の部屋で

兄の形見のキャリーケースをテーブルにし、

母と二人宴を開催した。









棺に入れようと思って用意した

お酒のラインナップはこんな感じ。







急遽だった為、変わったお酒は買えなかったが

ハシゴして、色んなお酒を買った。

歯ブラシと、タバコも棺に入れる事にした。











「歯磨き粉なんてもってないよね?」



という、何の説明も無いまま出された問いに

「使いかけでいいならあるよ」

と、前回も驚かされたが

ドラえもんの如く

願いを叶えてくれた母なのであった。











因みにモザイクの部分は、

兄へ向けたメッセージをLINEで送って

くださった方の文章や写真を1枚にまとめ、

印刷したものだ。

皆様の気持ちが兄へ届いて欲しいと思った。











このまま行けば

参列者は母と私(妹)だけ。

なんだか、少し寂しく感じた。










学生時代少しヤンチャしていた兄には

知り合いや友達が多くいた。













もちろん良い人ばかりでは無く

更生する為に父が縁を切らせ、

兄もその選択を呑み、耐えた。

そんな旧友に私から連絡したくなる程









どうして母と私の2人だけなんだと

悲しくなった。









誰か一緒に泣いてくれる様な

そんな人を探したいところだったが










今となっては良い死に方をしなかった

兄の醜態を晒さなくて良かったと思う。











あの頃のまま、

「アイツ何処で何してるかなー」








なんてたまに話された方が

きっと嬉しいよね。











あのまま、

そっちの道に進んでいたら

今頃兄は生きてるんだろうか⋯