ホテルに行く前の道中
ホテルに着く前に腹ごしらえをした。
全く食べる気はしなかったけど
せっかく兄が与えてくれた機会
を大事にしようとしっかり
ちゃっかり美味しく食べた。
母はノンアル。
私は角ハイを2杯呑んだ。
疲れきった体に良く染みた。
ホテルに到着する
当日予約で格安なホテルが取れたが
部屋に入るも、今時珍しい位
タバコの匂いで部屋が充満している。
はて。どうしたものか。
喫煙者でも辛い位の臭いだ。
換気扇を探すもどこにもない。
探し回るが見つからず
フロントに電話をかけてみる。
『もしもし、すみません。
換気扇の場所がわからないんですが』
『あっ、すいません
うち換気扇ないんですよ…』
『えっ、そうなんですか』
『はい。あるのはお風呂場の
小さい換気扇位ですね…』
との事だった。
どうりで安いわけだ。
落下防止用の窓の為
あまり開かない様になっていたが
少しだけ窓を開けて換気して過ごすことにした。
これからどうするか
これからどうするか母と話す。
兄の遺品整理をしなければいけない。
兄の彼女は『部屋鍵はポストに入れた』
というもののイマイチ信用ならない。
言うことが、二転三転する事から
大家さんに念の為連絡した。
「もしもし…実は昨日兄が亡くなりまして
荷物整理に伺わせていただきたいのですが」
「えっ?ほんまですか?
そんな可哀想に…」
「僕もなんて言葉をかけたらいいか…」
「何も出来んと、本当に
ごめんなさい」
と大家さんはおっしゃってくださった。
そして、明日、兄の家で会うことになった。
火葬の日までに遺品整理をし、
泊まる事も了承してくれた。
鍵は大家さん権限でもしもの場合
開けてくださるとの事だった。
その日の夜
相も変わらず近くのコンビニに行き
酒を買って飲んだ。
母には悪い気はするが
飲まないと正直やってられなかった。
沢山、たくさん母と話した。
兄の彼女の話、
私の最近の話、それから昔の話。
そんな中で分かった話があった
母が父の葬式に行かなかった件だ
よくよく話を聞くと、母は父の葬式に
行かなかったわけではなく
「行けなかった」と言った。
散々、母を助けてくれた父に
感謝してもしきれないと。
それから沢山迷惑をかけた分際で
今更ノコノコと葬式に出向いて
父方の親戚や父自身に
とてもではないが、
泥を塗るような事はできない
とそう思っていたそうだ。
昔の記憶と、幼い頃の思い込みとで
入り交じって解釈していた。
そして父の死後、大量の酒を飲み
病院に運ばれたとの事で
入院していたそうだ。
最後は歩けなくなり
自分でどうしようもなくなり
自ら病院へ連絡したそうだ。
それが最後の飲酒だった
との事だった。
大きな勘違いをしていた。
白状な母親だと思っていた。
でも違っていた。母も苦しんでいた様だった。
そして
「たまに父が夢に出てくる」
と言った。
母は少し迷惑そうに
「出てこんで
いいっちゃけどね」
と笑っていた。
傍から見れば大分歪んだ愛情ではあったが
母無しでは生きていけない程
母を父なりには愛していたので
夢に出てきても仕方ないだろう。
そしてシメのカップラーメンまで
しっかり食べていつの間にか寝ていた。
疲れていたこともあるが、後半は
記憶が無く、兄の話をする際には
きっと、泣いていた事だろう。
酔っ払いの介抱をしたその日の母は
とても大変だったことだろう。
次の日の母に
昨日の私の事を聞いたら
酔って寝ていたのに
4時30分頃イキナリ起きて
「もうすぐ
アイツの死んだ時間になる」
とだけ言って寝たらしい。
そんな朝のはじまりではあったが
これから私と母は
幽霊が出るかもしれない家に
火葬の日まで泊まろうとしている。
そして
電気やガス、水道もまだ
使える状態なのか不明だった。
兄の生活や、性格を思えば
恐らく滞納していたであろう可能性が
あると安易に予測できた。
もしもの場合はお金もかかるが
ホテルで宿泊する事も検討していた。
そうなった場合私の貯金は底を着き
関東まで帰ってくるお金は借金するしか
なくなっていた。
不安は募るが
私たちは意を決して
兄の家に向かう事にした。