直後
″あぁ⋯息をしていない″
そう思った瞬間に先生と
看護師がカーテンを開け中に入って来る。
兄の閉じた瞼を開き、
ライトを当てている。
「″〇〇〇〇さん。
今ご自身で息をされていません。
4時45分ご臨終です。」
その場に居た、皆さんと私で
手を合わせた。
その瞬間涙が溢れ出した。
あぁ、逝ってしまった⋯と。
本当に逝ってしまったんだね。と。
″やっと楽になれたんだね⋯″
そう思った。
本当は遺体にすがって泣きたかった。
だが、不思議ともう
そこには居ない気がして⋯
縋るのは辞めた。
そして先生たちに言った。
「本当にありがとうございました。
先生達の力が無ければ兄は
ここまでは、生きてられませんでした。」
「最期眠るように息を引き取れて
良い最後を迎えられて良かったです⋯
本当にお世話になりました。」
「ご愁傷さまです⋯。」
そう言われたのもつかの間、
死亡確認後、1分程だっただろうか⋯
「準備がありますので」
と、言われるまま、別室へと誘導され
兄と別れた。
別室に移動してからは
全てが終わってしまった気がして
我慢しようとしても、涙が止まらなかった。
そんな私を他所に、看護師さんは
「すいませんこんな時に
申し訳ないんですけれども⋯」
と言って、葬儀屋のパンフレットを
渡してきた。
別室に着いてからすぐの事だった。
「わかりました。電話してみます」
と言い平常心を保とうとする。
「またしばらくしたら来ますね」
と言われ、扉が閉まる。
パンフレットを見るも、
涙でなにも見えない。
考えていなかった訳ではないが
早すぎる。
昨日の今日で⋯。
とりあえず、誰にも見られず
ひとしきり泣く時間が欲しかった。
泣きたい気持ちを抑え葬儀屋を探し
考えもまとまらないまま、電話をかける。
まだ時刻は5時過ぎだ。
看護師さんに
「葬儀屋さんはいつ電話しても大丈夫ですよ」
と言われたものの、こんな時間に電話して
出るものなのか?と思いながら電話する。
結果的に電話が繋がる葬儀屋と
そうではなかった葬儀屋があった。
電話に出たのはいいものの、
「もしもし〜?
どうされましたかぁ〜?」
「え?葬式ですかぁ〜?」
と、葬儀屋に電話したのに
寝ボケているのか何を言ってるかわからない人や、
「✕▹%コ✕〇〜〜デス。」
とまぁ、会社名すら聞き取れない程の
カタコトの外国の方を電話対応させている
葬儀会社や、
対応の割にありえない金額を提示し、
あたかもこの辺りの相場だと
平然と言ってくる葬儀屋もあった。
その中で1番良かった葬儀屋さんは
まず初めに
「この度はご愁傷様でした⋯」
と第一声で言ってくれた葬儀屋さんだった。
そして
「この度はどなた様が
亡くなられたんでしょうか?」
と、差し支えなければ⋯と聞いてくれ、
状況を話していた。
そんな途中だった。
最後に看護師が来てから恐らく
10分後位だろう。
「どうですか?」
とまた、看護師が催促に来た。
「すいません⋯
今葬儀会社の方と話してます⋯」
と言うと、ムスっとした様子で
居なくなった。
どんだけ病室を開けたいのか?
と正直思ってしまった。
5分後
「どうなりました?」
と、看護師が再び来た。
「今良さそうな葬儀会社が見つかって
そこにしようかと思ってるんですけど⋯」
「もう少し早くなんとかなりませんか?
遺体の腐敗とかもあるので⋯」
「そうですよね⋯でも、母と兄はまだ
会えてないので霊安室に連れて行って
貰うことはできないですか?」
「え?霊安室にですか⋯」
「はい⋯死んだ後会えてないないし、
ましてや会えたとしても
冷たくなってるのも可哀想で⋯」
というと、
「霊安室も冷蔵庫みたいな
ものですけどねぇ。」
と言われてしまった。
なんとか引き伸ばしてもらえないかと
お願いするも「出来るだけ早くお願いします」
と、取り合って貰えなかった。
葬儀会社の話では、最低限の葬儀な為
ほぼほぼ、火葬のみ、
病院へ迎えに行ったらすぐ
ドライアイスで凍結する
といわれていた。
それが安く火葬を済ます
条件になっていた。
会えるのは火葬前の出棺の時。
つまりカチカチに冷たくなった
状態というわけだ。
その為、なんとかして母が来るまで
病院に置いておいて欲しかったのだ。
葬儀会社と電話
葬儀会社から電話がきた。
「どうなりましたか?」と
思っていた対応にはならず
急かされている事を伝える。
優しく親身に話しを聞いてくれる
葬儀屋さんの対応に
つい、本音と涙が出てきてしまった。
「兄は病気で死んだんですけど
今日母は会うつもりで⋯
でも、間に合わなくて⋯」
「⋯本当に安らかに亡くなったんです。
その顔が見て欲しくて。
冷たくなる前に会わせたくて。
ちゃんとお別れをする時間も
作ってあげたくて⋯
でも、
病院からは早く連れて行ってくれと
言われていまして⋯」
そう言うと、少し保留された後
他の人に電話が代わられた。
「お話少し伺いました」
と先程の流れを話す。
すると、今回は特別に
母が来るまで
冷凍保存はしない
という処置をしてくれる事となった。
「大した金額も出せないくせに
ワガママ効いてくださり
本当にありがとうございます⋯」と
涙ながらに感謝した。
そうして兄の葬儀会社が決まったのだった。