面会が終わり、母と予約していたホテルへ。

朝から何も、食べていなかった私と母だが

全くもってお腹が空かなかった。















そりゃあんな姿を見て

「あーお腹空いた!ステーキ食べたい!」

とは、流石の私もならなかった。












ホテルへ向かう足取りが重たい。

母も同じだろう。

久々に会えた私達だったが

あんな姿を前に、何を話せばいいか

わからないでいた。














ふと見つけたたこ焼き屋の看板








「あぁ、アイツと食べたかったな・・・。」

そんな想いで胸が苦しくなる










母に聞いてみる。「たこ焼き食べる?」


「いい。私何も要らない。」


「ふーん、そっか」























「すいません!
たこ焼きと
明石焼きください!」




別にこちらとて、腹など空いてない。

ただ、このせっかくの機会を

悲しいばかりの思い出にしたくなかった。









疲れている母をホテルへ送り届け

予約した、たこ焼きを一人で取りに向かう。












近くにあったドラッグストアで

病院で言われていた、アメニティ類を

私なりに必要な分だけ買っていった。

髭剃りは「電動じゃなくてもいい」との事で

T字型を購入し、その他は

髭剃り用フォームや

ウエットティッシュ

洗い流さないシャンプー

私に出来るのは、そんな事しかなかった。

”あとどの位生きれるか

わからないけど・・・”

そんな気持ちも過ぎりながら。

















それから・・・


悩みに悩んで、250mlの缶チューハイを

三本購入した。

私と、母と、兄の分だ。











そのまま、たこ焼き屋に寄り

たこ焼きを受け取る。

厨房の裏には居酒屋があり

お客さんで賑わっていた。












中身を確認してみると

箸が1つしか入っておらず

”ひょっとして私一人で食べれそうな位

たくましい見た目してた?!”

なんてプチショックを受けつつ

箸を入れてもらいホテルへ向かった。











大阪では当たり前なのか

なんと、たこ焼きは1パック10個から

しか選べず、明石焼きを入れると

最低味見個数=20個となった。













ホテルに帰り、母にたこ焼きを渡す。











「ホラ、食べりぃ。」







「要らない。アンタ食べんね。」






「ん?いいの私食べるよ?」






「いいよ」








これみよがしに、バクバクと食べた。

こういう作業は昔から得意である。









昔、父がなんでもかんでも

食べさせてくれたからだ。










川で採ってきたサワガニを漬けた

ガニ漬け。

(とてもじゃないが岩を食べている様だったし)








ロシア漬けなる、キュウリを丸1本漬けた物を

丸かじりさせられたことがあった。

(ピクルス丸かじりしてるみたいだった)








決まって私はそんな時

「美味しい!」と笑顔を作ったのだ。







なので今回も簡単。


”味なんか全く分かる心境じゃないけど”

「美味しい!」と言い食べた。







タコが大きくて確かに美味しかったが、

心境的には1個が限界だった。

母も全く手につけようとしない・・・。









「アイツの分まで食べなんよ!」

母が、一瞬ハッとした表情をする。












「そうやね・・・食べなんね。」

そうして母が食べ始める。

2人共味を感じれなかっただろうが

気づけば2人で完食していた。

















そして、ここ数年酒を辞めていた

元アル中の母にチューハイを1本渡す。






「呑む?」












すると母は

「要らない」と言った。











想像しない結果に、少し驚いた私だが

何でなのか理由を聞くと







「〇〇がアルコールで
こんな事になってるのに
私は呑めない。」

との事だった。






この人も母親なんだなぁ⋯

なんて心の中で思った。














こんな時位、飲んだって罰は当たらない

んじゃないか・・・


(兄は病院だが)3人で杯を交わしている

気分になりたかった私だが、母は頑なに

その後も、飲もうとしなかった。












とはいえ、私は酒を飲まなければ

耐えれなかった為

母の前でチューハイ3人分を

一人で飲み切ったのであった。

そして、今思っている気持ちを母に伝える。






























「大阪に住む」








「アンタこれからどうするつもりと?」







「こっちに住む。
それで、つまらん話を延々と聞かせちゃる。
入院中暇ってゆうしね〜」









分かっている。兄は多分助からない。

この選択は偽善でもなんでも無く、

私の為の行動だということも。









そして、母に私は言った



「(アイツには)悪いけど
生きていく人間が
後悔しないで生きて行く
方が大事やけん。






「私このままやと
絶対後悔するから。









自分に言った様で母に言った様な

そんな言葉だった










近くに居れば急変時側にいれるし、

サポートも少なからず出来る。

何より、受け止める時間が足りず

話したいことが沢山あったのだ。












「そっか。分かった。
ごめんけど頼んだよ。
私もその方が安心やけん⋯」








そして母がバックから何か取り出す。












中には10万円が入っていた。

コツコツ貯めていたらしい。








要らないと断ったが、

「この位しかしてあげれない」

という、母の気持ちを汲み取り貰う事にした。














と、言った私だったが

1つ問題があった。








お金に余裕が無い私の選択肢として





・新規で家を借りる
・兄の住んでいるアパートに住む

という2択に絞られた。















早急に大阪へ行きたい私だったが

できる事なら借金などしたくなく








兄の家に、お金が溜まるまで住めば

敷金・礼金が掛からずしばらく居れると

考えたが、脳裏に昔の記憶が蘇る。














兄の家は心霊現象が起きる

というものだった⋯。