初めて歩く公園の桜並木。
満開の桜。入園式帰りの親子。東屋で合唱の練習をするマダム。最後の春休みに集まる学生たち。
笑っていながらも、少し、緊張感を持つような、そんな人たちを横目に、少しふざけながらふたり進む。

あと数日で花が散ることなんて、微塵も感じさせないほど、全てのエネルギーを注いで咲かせている桜花。


木で1番大切なものは何か?
と、何かで読んだことがある。
根?幹?葉?本当は花と言いたい。
けれどそこには、実、と書いてあった。
そうか、木も次の桜を残すために花を咲かせ実をつけて、次の命を作るのか。


その日はお寿司屋さんをリクエストしていた。
以前行った時に、お刺身盛りがとても美味しく新鮮だったからだ。
あいにくカウンターには先客がいたので、前回先輩に連れられ、初めて訪れた時に皆で座った座敷に腰を下ろす。


そうか、この席から、店の庭の桜が見えるのか。
ほとんど真正面に、桜が咲いている。

お寿司を食べながら桜を眺めるなんて、なんて風流だ。

今年は悉く、他の花見の予定が合わなかったのは、これに行き着くためかもしれない。


ふいに、正面に座る彼が口を開く。

『チコは前にここの景色を見ていたんだよ』

『前にあのホテルに温泉に行ったでしょ。
その時に、向こう側からこっちを見ていたんだよ。』

と続ける。

深い意味はないのかもしれない。

でも、もしかしたら、あの日の自分は、当時では考えられない今の生活を、向こう側から見ていたのかもしれない。

いずれにせよ、どういう意図で言ったかを聞くことが無意味に感じつつ、桜を見るふりをして自分の答えを探しに思考が動き出した。