もう脱ぎ去ったはずのブレザーを久しぶりに着た。


キュッと締め付けられる襟の感じが凄くいやだったんだ。


中途半端なこの藍色も、ワイシャツのピタッとくっつくこの感じも。


鏡の奥にはあの頃の僕が立っていた。


低い身長に、すっぱいマスク、くるくるパーの髪


「そりゃ目立たないわけだ・・」


本なんてカモフラージュはいらなかったのかもしれないな


目立たないように・・なんて必要なかった。


「行って来ます」


過去の自分にそう告げて、僕は未来へ歩いた.。


階段を下りるとすぐ左側に玄関がある、いつも孫の手が5本かかっている。


靴箱の上の金魚は、今日も退屈そうだなぁ


「お前、そんな小さい世界でいいのか?」


川に行けば、びっくりするんだろうなぁ


見たこともない世界が広がっていて、きっともう2度と水槽じゃ飼えないだろうに。


「・・かわいそうだなぁ」




張り切る母の横で、僕は疲れきってしまった。


だいたい願書出すのと同時に面接っておかしすぎるだろ。


・・・お母さんはどうしてそんなに学校へ行って欲しいんだろう。


やっぱり高卒の資格かな・・?


学校へ行っても何の意味も見出せなかった。


でも親は意味を欲しがる。理由を欲しがる。


なぜ、つらいのか。 なぜ、行きたくないのか。


そんなのこっちが教えて欲しいもんだよ。


大した理由もなく、学校を辞めた僕は愚かだろうか。


きっと笑われるんだろうな・・・


「真治?何ブツブツ言ってんのよ」


ハンドルを握ったまま母は言った。


「・・・・別に」


「しっかりしてよね!ビシッとしなさい!通信の面接はめったに落ちることはないけど、

先生には好かれた方がいいでしょう?ね!!」


落ちる事・・・ないのか????


え・・・?


んじゃなんのための面接?


意味ないじゃんか!!!!!!


あっ・・・・・・・


心臓が一つ鳴った。


「意味のないことも必要なんだ」


落ち着かせるように口走った。


「意味のないことなんてないわよ」


キキッ・・


母のブレーキは強い。


体が前のめりになる、気持ちが悪くなる。


「もうすぐつくから、しっかりね!!」


見たこともない道へ入る。ここは何市だ?


奥のほうで人だかりが見える。


が、僕を乗せた車は右へ曲がった。


広々とした駐車場につき、さっきの人だかりが学校内だと気付いた。


気持ちの悪いブレーキとともに、とうとう着いてしまった。


「さぁついた」 母は笑みを浮かべた。


体の30%しか力が入ってない、そんな感じ。


こう・・・こんにゃくみたいな感じ。


「ちょっと!ビシッとしてよ!」


早足でこちらに向かってきた母は、学校の書類で背中を叩いた。


普通の学校と変わらない外観。


ただ、普通の高校はこんなに駐車場はないだろうな。


あと、プールがないみたいだな


「え~っと入り口入り口」


人差し指に唾液をつけながら、黄緑色のパンフレットをめくりなんだか忙しそう。


・・・・今日は良い天気だ。


なんか流れてる時間が違うよな。


「ほら、こっちよ!早く」


早くも母は歩き出していた。