覚悟していてもデフレは無理 | 秋山のブログ

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池田信夫氏が、一年前の記事だが、デフレ脱却なんて無意味だなどと書いている。彼がよくやらかしているのは、何十年も前に学んだことをすっかり事実だと決め付けてそれを前提に考えることだ。そのため現実と乖離した結果が出るが、多くの経済学者がそうしているように、現実を精密に表現するのは無理であるからそんなものだと流してしまう。想定外の結果には、前提とする理論を疑ってかかるべきであるのになかなかそれをしないところが、一部の例外(スティグリッツ教授とその周辺)を除いた経済学が、他の学問よりも劣っているところだろう。

池田信夫氏が、どこを勘違いしているかは、大抵容易に見つかる。

藤井聡氏が、「物価の下落→民間企業は投資を抑制」(確かに何故そうなるかを言わなければ不親切)としているのに対して、藤井聡氏が物価が下がると企業の利益が下がると勘違いしていると勝手に考えて批判している。
もちろん、物価が下がれば、それに比例して売上げ額も下がるだろうが、お金の額面に対する価値はその分上がるので、企業の売上げの価値は変わらない。そこまでは極めて当たり前のことだ。
しかし、従業員の賃金や金利が平行して変化するとは限らないためにそんなに単純に成立するわけではない。池田氏は、名目賃金も名目金利も下がった事をもって、成立したと決め付けているが、実際はどの程度下がったかをみて(実際には日本では物価以上に給与が下がった)評価しなくてはいけないだろう(給与が下がらなければ失業が生まれるというフリードマンの戯言をそのまま信じているのも相変わらずだ)。さらには、既に借りてしまっているお金は旧来の金利が適応される。経営自体が苦しくなるのに、さらに投資だろうか。
投資をすることにおいて金利は重要である。金利がどれだけ低くても、需要がなくて物が売れそうになければ投資はなされないが、需要が十分あって物が売れそうでも金利が高ければ投資に二の足を踏むだろう。
ここで銀行の立場にたってみれば、あまり低い金利で貸し出すことはできない。低い名目金利で貸せば、正の値しかとらない借入金利との差から、銀行職員の給与やシステムの維持のための費用を捻出できなくなる。(逆に仮にインフレ率10%であったなら、貸出金利が10%より低い金利であったとしても、借入金利がそれより低いことで十分な利益を得ることが可能である)つまりは、ある程度以上は下がらないだろう。つまりデフレというのは高実質金利を通して企業の投資を抑制するのだ。
一方、池田氏の言う通り貨幣錯覚の効果というものは、全くないとは言えないだろう。覚悟していれば大丈夫という言葉の意味は、この錯覚の効果が強く出なければ害がないという意味だ。そしてその効果は大して出ていないということに関しても池田氏の言う通りである。貨幣錯覚は経済の現象を説明する時によく使われているが、そこでおこなわれているように過大評価すべきものではないだろう。

整理をすると、池田氏は賃金の下方硬直性と貨幣錯覚という概念(前者は実証上存在自体怪しく、後者はあるだろうが大した効果はない)を盲信し、実質金利高に関しては(別の項をみると気付いてもいるくせに)無視している。デフレの問題は金利の問題だ。(他にも担保割れの問題も考えられる)

この問題は、意外と誤解している人が多いようで、榊原英資氏も同じようなことを言っているのをみつけた。