学生時代の友人同士で立ち上げたベンチャー企業「ぐらんま」で働く社員たちは、多忙な日々を送っている。不規則な生活のせいで食事はおろそかになり、社内も散らかり放題で殺伐とした雰囲気だ。そんな状況を改善するため、社長は会社で家政婦を雇おうと提案をする。やってきた家政婦の筧みのりは、無愛想だが完璧に家事をこなし、心がほっとするご飯を作ってくれる。筧の作る食事を通じて、社員たちは次第に自分の生活を見つめ直すが、その矢先思わぬ出来事が・・・・・・。人生の酸いも甘いもとことん味わう、滋味溢れる連作短編集。


ぶっきらぼうだけど優しい家政婦さんが、忙しくて心が疲れた若者たちに美味しいもの食べさせて悩みに寄り添ってくれるほっこり系のお話かと思いきや、途中から雲行きが怪しくなり始めます。最後はバッドエンドではないもののなんだか心がざわつく感じで終わってしまってもやっとしますが、筧さんや庄田くんの状況を考えるとそう簡単にすっきり明るく解決!とはいかないわな。


数十億の売却価格がつくようなベンチャー企業を、学生気分のまま友人同士で忙しく経営しているぐらんまのメンバーたち。かなり恵まれた環境にいるとは思うのですが、彼らにも当人なりの悩みや葛藤があり、筧さんの派手ではないけれど心のこもった食事と干渉しすぎない適度な距離感で励まされ一歩を踏み出す力をもらいます。


その筧さんは少女のころに出産堕胎を経験し十代で家を出ざるを得なくなり、その後はラブホテルの清掃業などを渡り歩いてきた苦労人。本当は自分も、というか自分の方が支えてほしい状況だったのに、手を差し伸べてくれる人がいなくて強くならざるを得なかったからこそ、全てを持っているように見える人たちの贅沢な悩みにも付き合ってあげられるのではないかと思います。いくら人の悩みに大小なんてないとは言っても、比較してしまったら私なら普通にムカついちゃうもんな。特に胡雪とは絶対友達になれなさそう。


柿枝も持っているのに満たされなくてある意味可哀想な人なのかもしれないですね。


そして表紙のお手本みたいな目玉焼きのイラストが美味しそうすぎて。絶対半熟でお醤油派です。