池上信用金庫に勤める小倉太郎。その取引先「松田かばん」の社長が急逝した。残された二人の兄弟。会社を手伝っていた次男に生前、「相続を放棄しろ」と語り、遺言には会社の株全てを大手銀行に勤めていた長男に譲ると書かれていた。乗り込んできた長男と対峙する小倉太郎。父の想いはどこに?表題作他五編収録。


銀行員を主人公とした六編の短編集で、銀行の融資担当者と資金繰りに苦労している中小企業のお話が中心となっています。運転資金の調達で手形の割引や融資を望む中小企業と、回収できない恐れのあるお金は貸せない、不良債権は抱えたくない銀行の攻防が描かれています。


正直なところ、池井戸作品の醍醐味は長編の勧善懲悪ものだろうと思っていたのですが、短編でも薄っぺらくならず、やりきれない気持ちにさせられる話や余韻に浸れるような話、もちろんスカッとする話もありバラエティに富んでいてお得でした。


なかでもマイナスからのスタートから女手一つで鉄鋼業を営む会社を大きくしてきた社長と、ギリギリのところで自転車操業を繰り返しているその会社を支えようと奔走する新人銀行員の「芥のごとく」が心に残りました。誰が悪いというわけではないのに、転がるようにどんどん状況が悪化していき、悲哀が詰まった結末には苦しくなります。あくまでも銀行員目線の話なので関係が途切れたところで終わっているのですがどうか無事でいてほしいな。


主人公以外の登場人物でも一人ひとりの性格まで詳細にイメージできるような描かれ方で、登場人物の誰かしらに自分を重ねてはまれる作品だと思います。